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リアルファイトお嬢様  作者: ノリカワショーガ
第3章 紅華入会試験

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第11話 紅華入会試験(3)

 今週末は、待ちに待ったクラスメイトとのお茶会の日だ。


 桜仙花学園の食堂にはお洒落なカフェが併設されていて、土日でも予約をすればアフタヌーンティーなんてものを嗜むことができる。


 わたしが誘ったイスカちゃんを含め、四人がテーブルを囲んでケーキスタンドのお菓子や紅茶を頂いている。

 クラスメイトとはいえ、米村さんも飯島さんも生粋のお嬢様だから、ムードメーカーのイスカちゃんが来てくれて助かった。


 イスカちゃんが同席していることもあって、話題はもっぱら紅華のことだ。


「噂には聞いておりましたが、紅華の試練というものは本当に大変なのですね」


「ええ、尊敬しますわ。とても私には真似できそうもありません」


 入会試験の詳細を聞いた米村さんと飯島さんは、揃って目を丸くした。


 尊敬してもらえるのは嬉しいし、今日のお茶会は今週ずっと楽しみにしていた。

 だけど今のわたしは、なかなかそれを手放しに楽しむ気持ちになれなかった。


 口元まで運んだダージリンティーを、わたしはそっとソーサーに戻す。


「まだ見習い未満だし、全然すごくないよ。紅華のこともだけど……普段の勉強のことも」


 そしてわたしは、常よりお世話になっているクラスメイトに、改まって頭を下げた。


「みんな、ごめんね。いつもわたしのせいでみんなの時間を奪っちゃって、しかもそのことを深刻に考えようとしなくて。もしそれを迷惑に感じることがあったら、いつでも遠慮なく言ってほしいんだ」


 イスカちゃんは驚いた様子で他の二人と顔を見合わせ、気遣うように尋ねてきた。


「陽香ちゃん、どうしたの? 何かあった?」


「うん、ちょっと今日までの醜態を思い返して反省と言いますか……」


 頭にあったのは、もちろん先日の弥勒寺さんとの会話だ。


 考えてみれば、わたしはこんな風に油を売っている場合ではないのかもしれない。

 それでも約束をドタキャンすればそれこそ不誠実になるし、せめてこの言葉はみんなに伝えておくべきだとも思った。


 陰口みたいにしたくなかったから弥勒寺さんのことは濁したけど、イスカちゃんには勘付かれたようだ。

 つまんだスコーンをわたしのプレートに乗せ、ウインクを一つ。


「まぁ、何があったのか深くは訊かないけどさ、あんまり気に病みなさんなよ。少なくともあたしは今の学園生活に満足してるし、迷惑だと思ってる相手とこんな風にお茶するほどお人好しでもないから」


 イスカちゃんに続き、米村さんも温かい言葉を掛けてくれる。


「一ノ瀬さんの仰るとおりです。我々はまだ半人前のお嬢様かもしれませんが、誠実な人間とそうでない人間の区別は付きますわ。高遠さんが前者であるということも」


 嬉しくないわけじゃないけど、余計に気を遣わせてしまったようにも思えてしまい、わたしはおずおずと尋ねる。


「その、みんなの気遣いはもちろんすごく有り難いんだけど……何で外部生のわたしにそんなに優しくしてくれるの?」


「『情けは人の為ならず』ですよ、高遠さん」


 端的に答えたのは飯島さんだった。

 両手を膝の上に置き、淑やかな居住まいでわたしに語り掛けてくる。


「輝知会長が入学式で仰っていたでしょう? 桜仙花学園の生徒は、ほとんどが有力者の子で、そうでなくとも何かしらの学や才に秀でた者ばかり。つまりここは単なる学び舎ではなく、これからの日本を担うお嬢様たちの社交場という性質を併せ持っているのです。ここで多様な人脈を培うことは、将来の自分にとって立派なメリットとなるのですよ」


 わたしは得心した。

 飯島さんと米村さんも、それぞれ全国的なスーパーマーケットと運送会社の社長令嬢で、彼女たちの友人関係もその繋がりから来ていると聞く。


 人脈を増やすメリットが大きいということは、イコール敵に回すデメリットも計り知れないということなのだ。

 下らない嫌がらせのせいで億単位の取引がパーになったら笑い話にもならない。


 お嬢様の優しさの源を理解しつつも、わたしの心は晴れない。


「でもわたしは全然お嬢様の生まれでも天才でもないし、みんなのメリットになれるような生徒じゃ……」


「ならばこれは、私どもからの高遠さんに対する()()と解釈していただいても構いませんわ」


 どこまでも後ろ向きなわたしの言葉を、飯島さんはきっぱりと断ち切った。

 彼女の嫋やかな微笑みは、同級生とは思えないほど大人びたものだ。


「学園生活を通してご自身の付加価値を磨き上げ、在学中ないし卒業後に何かしらの形でお返しいただければよろしい。そして心身の余裕ができたら、今度は高遠さんが迷えるお嬢様に()()をするのです。人の縁も世界も、そうやって回るものなのですよ」


 飯島さんの台詞に、優雅に紅茶を啜る米村さんが追従する。


「その通り、高遠さんは謙虚と卑屈を履き違えていらっしゃいます。これ以上ウジウジするようならぶっ飛ばしますわよ?」


「ぶ、ぶっと……?」


 唐突な物騒ワードに耳を疑うわたしに、米村さんは含み笑いをして付け加えた。


「うふふ、小粋な冗談ですわ。高遠さんが頑張っているから、私も頑張ろうって思えますのよ。ですからどうかもっと自信をお持ちになって?」


「そうだよ! 桜仙花学園に入って紅華のテッペン目指すなんて、それだけでとんでもない可能性の塊なんだからね!」


 最後にイスカちゃんにそう励まされ、わたしは安堵以上の感動を覚えていた。


 桜仙花学園に入ってよかった。素敵な友達に恵まれてよかった。

 今はまだ頼りないけれど、彼女たちの支えになれるくらいのお嬢様にならないと。

 学友としても、紅華としても。


「……ありがとう! わたし、もっと頑張るよ! 自分のためにも、みんなのためにも!」


「うんうん、そういう明るい方が陽香ちゃんらしいよ」


「期待していますわよ、次代の戦姫」


 イスカちゃんと米村さんがにこやかに相槌を打った直後、わたしはカフェのガラス窓の向こうに見覚えのある人影を認めた。


 首を伸ばして確かめると、それはライムちゃんだった。

 精一杯背伸びして、ガラスの向こうのわたしたちと、店前の看板を見比べているようだ。


 わたしは断りを入れて席を離れ、小走りで店の外に出た。


「ライムちゃん、何してるの? カフェのアフタヌーンティー、気になる?」


 わたしが声を掛けると、ライムちゃんはビクッと体を跳ねさせ、視線をあちこちに彷徨わせる。


「あ、あの、僕は別に……僕じゃなくて妹がちょっと気になってるらしくて……」


「へー、ライムちゃんって妹いるんだ! 一年生? それとも他校?」


「う、ううん、地元……年子だけど、学園のこと話したらいろいろ興味持ったみたいで……」


 ライムちゃんの言動は、相変わらずおどおどとしたものだ。


 入学から結構時間が経ったが、ライムちゃんは未だになかなか心を開いてくれない。

 部屋間違えの件を怒っているわけではなく、単に内気な性格なのだろう。別のクラスだけどいつ見掛けても一人だ。


 イスカちゃんがわたしの横からヒョコッと顔を出し、興味深そうに尋ねてきた。


「陽香ちゃんの友達?」


「うん。寮で部屋が隣同士の鶴巻つるまきライムちゃん。ねぇ、ライムちゃんもご一緒させてもらっていいかな?」


 考える間もなく、わたしはそう提案していた。

 ライムちゃんはきっと、アフタヌーンティーが二人以上でしか予約できないから困っていたのだろう。これは彼女と親睦を深めるいい機会だ。

 イスカちゃんはガラス越しに席を見、顎に指を当てる。


「あたしは構わないけど……でも、ケーキスタンドのお菓子、もう結構食べちゃったよね。単品なら追加注文できるかもだけど……」


「そっか、じゃあライムちゃんにわたしがお茶とケーキ奢ってあげる!」


 わたしはそう決めるや否や、早速ライムちゃんの手を取って店内に引き返した。

 引っ張られるライムちゃんは、驚いた表情で目をぱちくりさせている。


「な、何で……? 高遠さん、僕のこと怖くないの?」


「何言ってるの、怖いわけないじゃん! クラスは違うけど、同じ外部生で寮のお隣さんなんだから、むしろもっと仲良くしたいくらいだよ。ライムちゃん、声掛けようとしてもすぐにどっか行っちゃうし、妹さんへの報告も兼ねて一緒にお茶しようよ。ほら、初日に失礼したアレのお詫びも兼ねてさ、遠慮なく」


「そういう、ことなら……」


 わたしの熱弁で、ライムちゃんは一応の納得をしてくれたようだ。やっぱり人と関わりたくないわけじゃないんだよね。

 やり取りを聞いていたイスカちゃんが、不思議そうに質問してくる。


「初日に失礼したアレって?」


「ああ、それはまぁ……二人だけの秘密ってことで……」


 さすがに部屋を間違えて半裸のライムちゃんと鉢合わせたとは言いにくい。

 米村さんと飯島さんに紹介しつつ、追加の椅子を拝借してきたわたしに、ライムちゃんは小声で詫びてきた。


「……ごめん。僕、高遠さんのこと、ずっと変な誤解してたかも」


「そんなの気にしなくっていいよ! これからどんどん仲良くしてこ! 呼び方も高遠さんじゃなくて陽香でいいから!」


 わたしが元気いっぱい親指を立てると、いつも固い表情のライムちゃんが微笑んでくれた気がして、それだけでわたしも嬉しくなってしまう。


 情けは人の為ならず。人脈は財産。

 ライムちゃんとこうして繋がることは、わたしのこれからの学園生活にとっても間違いなくプラスになるはず。


 新たな同席者を、三人のお嬢様もにこやかに歓迎してくれた。


「あたしは一ノ瀬イスカ! よろしくね、ライムちゃん!」

「鶴巻さん、小動物みたいでかわいらしいですわ~!」

「推薦ではなく高遠さんと同じ一般入試枠でしょうか? 出身はどちらで?」

「あ、あの、えっとその、入試は一般……出身は茨城で……って陽香ちゃん、何してるの?」

「せっかくだからみんなで自撮り! いえーいピスピス!」

「ちょっ、そんないきなり……?」


 ライムちゃんがブレたりイスカちゃんが余所見したりで綺麗な写りにはならなかったけど、何気ない日常の一ページを切り取ったみたいで悪くない。こういう積み重ねがいずれ青春の尊い思い出になるんだよね。


 結局、ライムちゃんの人見知りは最後まで続いたけど、お開きになる頃には連絡先を交換したり寮まで一緒に帰ったりする程度には打ち解けてくれた。


 これは高遠陽香にとっては偉大な一歩である!

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