繋がる絆
「テトを、もう一度形にするために――まずは彼女の『欠片』を集めなきゃいけない」
ハルトは美波とともに、放課後の図書室の隅でタブレットを広げた。美波が持っていたスマホの動画だけでは、心臓や脳、そして何より「性格」を再構築するための情報密度が圧倒的に足りないのだ。
「『エテュレ・オンライン』には、運営外で有志が作っていた『戦闘解析プラグイン』があったよね。あそこに記録された詳細ログ……通称『魂の残滓』が必要だ」
「でも、あのサイトはサーバー終了と一緒に閉鎖されたんじゃ……」
美波が不安げに呟く。ハルトは不敵に笑い、フェンの鼻先を指差した。
「普通の手段じゃ無理だけど、僕たちには『元・当事者』がいる」
フェンがゴーグルを装着し、ハルトが組んだ特製ブラウザに接続する。フェンの脳波を介して、かつてのゲーム内ネットワークの「深層」へダイブするのだ。
『ハルト、見つけたぞ。……だが、ログの閲覧権限が当時のギルド長たちに分散してロックされている。……こいつは、かつての戦友たちを訪ね歩く必要がありそうだな』
第一の接触:かつての「情報屋」
二人が最初に連絡を取ったのは、ゲーム内で情報の売買をしていた**「ネズミのクロ」**こと、現在はしがない大学生の黒田だった。
「……は? テトのログ? 今さらそんなもん探してどうすんだよ」
駅前の喫茶店で、黒田は呆れたようにコーヒーを啜った。しかし、ハルトが足元のフェンを見せ、さらに「この犬が実は……」と一部の真実を明かすと、彼はカップを落としそうになった。
「マジかよ……。お前、正気か? 運営が知ったら即座に訴訟もんだぞ。……でも、あいつ(テト)には俺もポーション運んでもらったしな。……いいぜ。俺が持ってる『非公式ログの断片』を譲ってやる」
黒田が差し出したUSBメモリ。そこには、美波も知らなかったテトの「癖」や「心拍の変化」が、膨大な数値データとして記録されていた。
繋がる「欠片」:元プレイヤーたちの協力
それから一週間、ハルトと美波、そしてフェンは、SNSや掲示板を駆使してかつての仲間たちにコンタクトを取り続けた。
元・盾使いのテツ: 「テトが俺を応援してくれた時のボイスデータなら、全部バックアップしてあるぜ! 役立ててくれ!」
元・ライバルの魔術師: 「あの子の特殊スキルの発動フレーム数なら、解析用に保存している。……奇跡が起きるなら、協力しよう」
かつての仲間たちは、最初は半信半疑だった。しかし、ハルトの熱意と、隣で静かに、けれど確かに「生きている」フェンの姿を見て、誰もが自分の宝物だったデータを差し出してくれた。
「……すごい。みんな、テトのことを覚えててくれたんだ」
集まったデータは、数百ギガバイトに及ぶテトの「生きた証」。 ハルトはそれらを、父の研究室のサーバーへ密かにアップロードした。
「よし……これだけあれば、テトの『遺伝子アルゴリズム』を組める。美波さん、準備はいい? ……ここからは、科学が奇跡に追いつく番だ」
『フン。ようやく面白くなってきたな』
フェンが誇らしげに喉を鳴らす。 モニターには、再構築が始まったテトの「光のワイヤーフレーム」が、再びこの世界に産声を上げようと脈動を始めていた。




