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「奇跡」の続き

「お願い、ハルトくん……!」


美波がハルトのシャツの袖を、絞り出すような力で掴んだ。その指先は小刻みに震えていて、大きな瞳からは大粒の涙が溢れ出している。


「私にも……私にもあの子を返して。私の相棒だった『テト』を……もう一度、抱きしめさせて!」


彼女の言葉は、悲鳴に近かった。ハルトは息を呑み、周囲に誰もいないことを確認して、彼女を校舎の裏へと促した。


「美波さん、落ち着いて。声が大きいよ……」 「落ち着いてなんていられないよ! サバ終の日、テトが消える瞬間、あの子は私を励ますみたいに笑ったの。でも、私は何もできなかった。ただ画面が暗くなるのを見てるだけで……っ」


美波は地面に崩れ落ちるように膝をついた。 彼女が失った「テト」は、小鳥型の支援獣だったという。戦闘能力は低かったが、いつも彼女の肩に乗り、寂しい時にさえずってくれた、かけがえのない家族。


「ハルトくんは、フェンを連れてこれたんでしょ? だったら、テトだって……! お金なら、お年玉も貯金も全部出すから。何でもするから!」


ハルトは胸が締め付けられるような思いだった。彼女の絶望も、その後に見えた「希望」にすがりたい気持ちも、痛いほどわかる。 けれど、現実は残酷だった。


「……できないんだ、美波さん」 「どうして!? 目の前にフェンがいるじゃない!」 「フェンは、サービス終了の一年も前から準備をしてたんだ。彼の全データを、僕の両親が持っている特殊な装置で、少しずつ『生物の設計図』に書き換えて……。サバ終の瞬間に、最後のログを流し込んで、ようやく間に合ったんだ」


ハルトはしゃがみ込み、美波と視線を合わせた。


「もう、サーバーは閉じてる。データは消去された。テトの『心』のログがどこにもない今の状態じゃ、どんなに高度なバイオプリンタを使っても……それはテトじゃない、ただの『テトに似た小鳥』にしかならないんだ」


「そんな……嘘でしょ……」 美波の顔から血の気が引いていく。


『ハルト……』 フェンが静かに歩み寄り、美波の震える肩に、その温かい銀色の頭をそっと預けた。


『小娘。お前の悲しみは、俺のログにも響く。……だが、絶望するのはまだ早い。ハルト、例の「あれ」を試す価値はあるんじゃないか?』


(えっ……「あれ」って、まさか……)


ハルトはフェンの思念を読み取り、ハッとした。 公式サーバーは死んだ。だが、プレイヤーたちが愛用していた「外部拡張ストレージ」や、一部の「非公式な行動ログ保存ツール」に、断片的なデータが残っている可能性はゼロではない。


「美波さん。……テトの、動画とか、スクリーンショットとか、当時のプレイログ……何か、少しでも残ってるものはある?」


美波は涙を拭い、震える手でスマートフォンを取り出した。 「……全部、残してる。消せなくて……毎日、見てるから」


ハルトは彼女の手を握った。 「完璧に元通りにはできないかもしれない。でも、君が持ってるその『記憶』があれば、僕の両親の研究室にある技術で……何かできるかもしれない。やってみる?」


美波の瞳に、再び小さな灯がともった。それは、科学の常識を超えた「奇跡」の続きを求める、新しい物語の始まりだった。

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