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「特殊ARゴーグル」

オフ会から帰宅したその夜、フェンはどこか落ち着かない様子で、暗いリビングの窓の外をじっと見つめていた。


「……フェン、どうしたんだ?」 『ハルト。この世界は……色が少ない。それに、壁の向こうの魔力エナジーの流れが見えない。まるで、視界に霧がかかったようだ』


フェンの言葉に、ハルトは胸を突かれた。 フェンは元々、VR世界で「精霊の眼」を持つ高位の獣魔だった。熱源、魔力の脈動、そして数百メートル先の動体検知。それらすべてを失った今の肉体は、彼にとって「目隠し」をされているに近い閉塞感があるのかもしれない。


「ごめんな、フェン。……ちょっと待ってろ。僕にしかできない『魔法』をかけてやるから」




開発:プロジェクト・アイズ


ハルトは再び地下の研究室にこもった。 両親から譲り受けた(半分は勝手に持ち出した)精密工作キットと、VRヘッドセットの予備パーツを分解する。


超小型バイオ・センサー: フェンの脳波を読み取り、彼が「見よう」としている対象を特定する。


多スペクトル・カメラ: 赤外線、紫外線、そして微弱な電磁波を可視化する。


ARコンタクト・ユニット: 網膜に直接、VR時代に近いUIユーザーインターフェースを投影する。


ハルトは、かつての『エテュレ・オンライン』のソースコードから、フェンが使っていた視覚補正エフェクトを抜き出し、現実の物理光情報にオーバーレイ(重ね合わせ)させるプログラムを書き上げた。



起動:世界が再び「輝く」瞬間


一週間後。ハルトはフェンの顔の形にぴったり合うように設計した、流線型のスマート・ゴーグルを完成させた。


「ちょっと我慢してくれよ……よし、接続」


ハルトがタブレットを操作し、リンクを開始する。 フェンの喉が「グルル……」と低く鳴り、ゴーグルのレンズが青白く発光した。


その瞬間、フェンの全身の毛が逆立った。


『――! ハルト、これは……!』


フェンの視界の中で、単なるリビングの風景が一変した。 壁を這う電線は、黄金色の「魔力回路」のように脈動して見え、窓の外の夜闇には、微小な虫や小動物の熱源が色彩豊かにマッピングされている。 そして何より、目の前に立つハルトの胸元には、彼の心音に合わせた柔らかな「HPバー」の光が浮かんでいた。


『見える……見えるぞ! VRあっちの世界にいた時と同じだ。いや、それ以上に……世界の『音』が、光になって流れてくる!』


フェンは歓喜したように部屋の中を駆け回った。テーブルを軽やかに飛び越え、空中に浮かぶデジタルなノイズ(実際には空気の揺らぎ)を前足で叩く。


「……よかった。フェン、それが僕たちがいた世界だ。これからは、現実こっちでもその目で見続けてくれ」


フェンはハルトの前に立ち止まり、ゴーグル越しにその瞳をじっと見つめた。 レンズには、ハルトの頭上に表示された**【テイマー:ハルト(Lv.99)】**という、ハルトが遊び心で仕込んだ懐かしいタグが映し出されている。


『ああ。この不自由な世界も、お前のおかげで悪くない。……さて、ハルト。視界は確保した。次は、俺の脚力に見合う「広い狩場」へ連れて行け。この肉体、まだ全開で走ったことがないからな』


フェンは不敵に笑い、ハルトの袖を軽く引いた。

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