「神」の玉座
運営本社ビルの最上階。ハルトとフェン、そして美波とテトは、ついに「神」の玉座へと辿り着きました。
そこに待っていたのは、冷徹な独裁者ではなく、やつれ、モニターの群れに囲まれて座る一人の男――運営会社『エテュレ・ソフト』の社長、九条でした。
「……来たか。アルヴィスの『鍵』を受け取った子供たちが」
九条の背後の巨大なモニターには、サービス終了したはずの『エテュレ・オンライン』の真っ暗なマップが映し出されていました。しかし、その中央、たった一箇所だけ、激しく明滅する光の塊があります。
全ては「たった一匹」のために
「九条社長……あなたが『掃除人』を放って、僕たちを追い詰めていたんですか!?」 ハルトの問いに、九条は力なく首を振りました。
「いや……掃除人を送っていたのは、私を解任しようとしている取締役会だ。彼らにとって、君たちが持つ『人工生命体』は、会社の資産横領の証拠でしかない。私はむしろ……君たちがここまで辿り着くのを待っていた」
九条は震える手で、デスクの傍らにある古い、骨董品のような「生命維持カプセル」を指しました。そこには、フェンやテトよりもずっと色が薄く、今にも消えてしまいそうな小さな子猫型の獣魔が、数千のコードに繋がれて眠っていました。
「私の相棒……ミィだ。彼女はゲームのβテスト時代から私を支えてくれた。だが、彼女のデータはあまりに古く、複雑になりすぎていた。私の技術では、君たちのフェンのように『完全な肉体』へ移し替えることができなかったんだ」
ハルトは絶句しました。 九条は、自分の相棒を救うための「最適解」を見つけるために、あえてサービス終了を強行し、ハルトのような「親が特殊な技術を持つプレイヤー」たちが、どうやって相棒を現実化させるかを観察・シミュレートしていたのです。
最後のパズル
「君たちが各地で届けて回った『NPCの遺言』……あれこそが、ミィを救うために必要な、欠落した感情ログの集合体だった。皮肉なものだ。最高権力者の私に集められなかった絆の欠片を、君たち子供が、ただ『愛着』だけで繋ぎ合わせてしまった」
九条は立ち上がり、ハルトの前に膝をつきました。
「ハルトくん。君の持つ『鍵』を……テトの中に眠る全ログの最終統合データを、私のミィに、そして『エテュレ』の全ての魂に共有してくれないか。そうすれば、君たちの相棒を『外来種』ではなく、この世界の『正当な新生物』として登録する、全サーバー規模のパッチを現実に上書きできる」
ハルトはフェンと目を合わせました。 フェンは静かに頷きます。 『ハルト……俺は、もう「隠れる」のは飽きた。この小娘の相棒も、あの温室の連中も、堂々と太陽の下を歩けるようになるなら……俺のログを好きに使え』
奇跡の上書き(オーバーライト)
ハルトがテトをカプセルにかざし、アルヴィスのパスワードを入力した瞬間。 本社ビルのサーバーが唸りを上げ、青白い光が窓から溢れ出しました。
それは、現実世界への**「大規模アップデート」**でした。 ハルトたちが旅先で出会ったカイトのレクスも、セリカの小さなドラゴンも、そして日本中の「密かに救い出された相棒たち」の生体データが、公式な「人工生命体」として世界中のデータベースに一斉登録・承認されていきます。
光が収まった時、カプセルの中の子猫が、ゆっくりと目を開けました。 「……ミィ」 九条が涙を流して彼女を抱き上げます。




