隠されていた「予言」
「……待って。今のメッセージ、もう一度再生して」
温室の隅でテトのログを整理していたハルトの手が止まりました。 テトが再生したのは、かつてゲーム内の『知識の塔』で隠居していた老魔術師のNPC、**「賢者アルヴィス」**の伝言でした。
当初、それはただの別れの言葉だと思われていました。しかし、テトの中に眠る膨大なデータを、セリカが持ち込んだ高性能な解析機に通した瞬間、音声の波形の裏に隠されていた**「第2レイヤー」**のデータが浮き彫りになったのです。
隠されていた「予言」
『……ハルト、そして“こちら側”へ辿り着いた者たちよ』
テトの口から漏れたのは、これまでの誰よりもはっきりとした、理知的なアルヴィスの声でした。
『この世界が閉じる時、私は気づいた。運営という名の“神”たちが、我々を消去した後に放つであろう「掃除人」の存在に。……彼らは、現実世界の秩序を乱すイレギュラーを許さない』
「掃除人……セリカさんが言ってた、あの清掃ロボットの背後にいる組織のことだ!」
アルヴィスの声は続きます。
『我々が現実の肉体を得ることは、神の火を盗む行為に等しい。だが、救いはある。……テトの中に、私は**「偽装迷彩の術式」**を仕込んでおいた。これを発動させれば、君たちの相棒から放たれる特殊な生体エネルギーを、既存の犬や鳥のものとして偽造できる』
「えっ、そんなことができるの!?」
『ただし、そのためには三つの“鍵”が必要だ。一つはフェンの持つ「純粋な生命力」。一つはテトの持つ「膨大な記憶」。そして最後の一つは……』
アルヴィスの声が、一瞬ノイズに掻き消されました。
『……ハルト。君たちのスマートフォンに、運営会社が密かに残した**「デバッグ用バックドア」**のパスワードを転送する。それを使って、本社のメインサーバーにある「オリジン・データ」にアクセスしろ。それが最後の鍵だ』
逆転のシナリオ
テトの瞳が青く発光し、ハルトのスマホに見たこともない複雑な文字列が転送されました。
「……アルヴィスは、自分たちが消されることを分かった上で、僕たちが『現実で生き残るための武器』を遺してくれたんだ」
美波がテトを優しく撫でました。テトは少し誇らしげに、でもどこか寂しげにさえずります。 NPCたちは、ただ消えていったのではありませんでした。彼らは自分たちの「意志」を、最も信頼できるテイマーであるハルトたちに託し、現実世界を生き抜くための盾を作っていたのです。
「セリカさん、カイトくん。これがあれば、もう隠れて逃げるだけじゃなくて済むかもしれない」
「……そうね。でも、本社のサーバーにアクセスするってことは、あいつら(掃除人)の本丸に喧嘩を売るってことよ?」
セリカの言葉に、ハルトはフェンの頭を力強く撫でて答えました。
「喧嘩じゃないよ。……僕たちの家族を、正式に『この世界の住人』として認めさせるための、最後の手続きだ」
『いいだろう、ハルト。俺の牙が、その「神のサーバー」とやらを噛み砕く準備はできている』
フェンが獰猛に笑い、温室の空気がビリビリと震えました。 物語は、かつての相棒を救う「旅」から、相棒たちの存在権利を勝ち取るための「レジスタンス」へと、最終局面に向けて加速し始めました。




