もう一人の「テイマー」
「エテュレの伝言」を届ける旅の途上、ハルトたちは信じられない光景を目の当たりにします。
それは、寂れた海沿いの公園。夕暮れ時、フェンが突然立ち止まり、かつてないほど鋭く唸り声を上げた時でした。
『ハルト、警戒しろ。……この匂い、普通の生物じゃない。それも、ただのNPCでもないぞ』
フェンの視線の先、ベンチに座る一人の少年がいました。その足元にいたのは、体長30センチほどの「二足歩行するトカゲ」。それはゲーム内で、上位プレイヤーしかテイムできなかった幻のレア種『スカイスラッシュ・サウルス』に酷似していました。
もう一人の「テイマー」
「……君たちも、なの?」
ハルトたちの視線に気づいた少年が、寂しそうに笑いました。 彼の名はカイト。ハルトより二つほど年上ですが、その瞳にはハルトと同じ、深い秘密と覚悟の色が宿っていました。
「やっぱり、僕だけじゃなかったんだ。……この子は『レクス』。去年の夏、家のラボで……いや、正確には父さんの古い研究ノートを読み解いて、僕が作ったんだ」
カイトの父親は、ハルトの両親とは別の、とあるバイオ系企業のエンジニアでした。彼はハルトとは異なり、**「機械と生物の融合」**というアプローチで、相棒を現実世界に繋ぎ止めていたのです。
レクスの尻尾や背中には、精密なシリコンパーツとLEDが埋め込まれており、かすかに電子音が鳴っています。
「僕は、レクスを『軍事用ドローン』の試作機として偽装して登録したよ。そうしないと、この国では外を歩かせられないからね」
共有される「禁忌」の重み
ハルトたちはカイトとベンチに並び、自分たちの相棒がどうやって「こちら側」へ来たかを語り合いました。
「……ハルトくん。君のフェンやテトは、純粋な生物に近いんだね。それは……素晴らしいけれど、とても危険だ」
カイトは、レクスの金属的な前足を撫でながら静かに告げます。
「僕たちのように、消えるはずのデータを『命』に変えた人間は、他にも数人いるみたいだ。みんな、親のコネや最新の技術を盗んで……。でも、最近その『リスト』を作っている奴らがいる」
「リスト……? 運営会社の人?」
「いや。……『現実世界のバランス』を守ろうとする連中だ。 彼らにとって、魔法のような知能や能力を持つ僕たちの相棒は、生態系を壊す『侵略的外来種』でしかない」
その言葉を裏付けるように、テトが不穏なさえずりを上げました。 『……ハルト、空。……何か、見てる。テトの知らない、冷たい目が見てるよ』
上空を見上げると、一機の小型ドローンが、音もなく静止して彼らを見下ろしていました。
結成:テイマー・アンダーグラウンド
「ハルトくん、美波さん。伝言を届ける旅は続けて。でも、気をつけて」
カイトはレクスを抱き上げ、闇に紛れるように立ち上がりました。
「僕たちは、存在してはいけない命を救ってしまった。……でも、後悔はしていないよね? だったら、いつか『彼ら』が総攻撃を仕掛けてくる時に備えて、僕たちも繋がっておこう」
カイトはハルトに、暗号化されたSNSの招待QRコードを差し出しました。 それは、世界中に散らばった**「サバ終を乗り越えたテイマーたち」**が、相棒を守るために作った地下ネットワークの入り口でした。
ハルトはフェンの銀色の首元を強く掴み、去りゆくカイトの背中を見つめました。 旅の目的は「伝言」から、いつしか「自分たちの居場所を守る戦い」へと、静かに形を変え始めていました。




