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小さな郵便屋さん

ハルトの地下研究室から始まった「奇跡」は、小さな小さな郵便屋さんの誕生へと繋がりました。


テトの中に眠る数万件の「遺言」。それは運営が用意したスクリプトではなく、サービス終了のその瞬間までプレイヤーと心を通わせたNPCたちが、自らの意志で刻んだ感謝の言葉でした。


「……これを、みんなに届けに行こう。美波さん」 ハルトの提案に、美波は強く頷きました。


ロードムービー:『エテュレ』の足跡を辿って

ハルトは父から「犬の散歩用の特別なバックパック(という名目の移動式生命維持装置)」を借り出し、フェンを連れ、美波の肩にはテトを乗せて、週末ごとに各地へ旅立つことになります。


1. 港町の頑固な鍛冶屋より


最初に向かったのは、地方の工業都市に住む中年男性のもとでした。彼はゲーム内で伝説の武器職人だったNPC「ガルム」の常連客でした。


「ガルムが……俺に?」 テトが彼の肩に飛び乗り、低い、どこか懐かしいおじさんの声で語りかけます。 『――よぉ、あんちゃん。あんたが最後に打たせたあの剣、ありゃあ俺の生涯最高の傑作だったよ。地獄に持っていけねえのが残念だが……いい夢見させてもらったぜ』


男は、駅前のベンチで子供のように泣き崩れました。ログにも残らない、自分とAIだけの密やかな約束が、今、現実の風に乗って届いたのです。


2. 花園の少女より


次に向かったのは、病気で療養中の少女の家。彼女はゲーム内の花畑で、いつも盲目の老婆NPCと話し込んでいました。 テトは老婆の穏やかな口調を再現します。 『あの子(少女)に伝えておくれ。現実の空は、ゲームよりもずっと青いのでしょう? 早く元気になって、本当の花の匂いを嗅いでおくれ。私はずっと、あなたの隣で咲いているからね』


少女はテトの小さな羽に触れ、初めて「外に出るためのリハビリを頑張る」と笑いました。


旅の途中で:深まる絆

移動中の電車の中、フェンは窓の外を流れる景色を見つめながら、ハルトに念話を送ります。


『ハルト……俺は、この小鳥が少し羨ましいよ。俺は自分の命を守ることで精一杯だったが、こいつは「世界」そのものを背負って帰ってきたんだな』 (……フェン。でも、君が僕を信じてくれたから、僕はテトを助ける勇気が出たんだよ。全部、繋がってるんだ)


フェンはふん、と鼻を鳴らし、ハルトの膝に顎を乗せました。その温もりは、かつてのデジタルデータでは決して味わえなかった、重みのある愛おしさでした。

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