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~新しい人生をありがとう~ 嫌いだった義妹へ   作者: ねこまんまときみどりのことり


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思い人との再会

 その後もルギウス(アルミスカ)は、サフランに会う為にパン屋に通う。

 彼女はいつも幸せそうで、痩せていた体躯はパンの試食のせいか、ややふっくらとしていた。


 パン屋に来ていた他の客と彼女の話に耳を傾けると、どうやらアズラインと結婚間近らしいと言う。


(そうか……サフランはあいつと。しょうがないな、もう諦めよう)


 

 そう決めたその夜、蝙蝠の眷族であるアルデに呑みながら打ち明けたのだ。


「彼女のことを好きになったのはきっと、過去に出会ったバーバラに似ていたからなんだ。命の恩人で、僕の初恋の人に似た彼女に。

 顔が何となく似てるんだ。そして魂の色も何となくね。こんなに焦がれることになるなら、もっとしっかり覚えておけば良かったのにね」



 彼は長く生きるうちに、生きる意味を失っていた。けれどあの月夜のダンスだけは、今も鮮明に心に焼き付いていて、無意識に彼女のことを探していたのだ。


 まるで夢のようだった刹那を。


 

 懺悔でもするように神妙な様子に、アルデは心配になる。

(もしかしたら、消滅する気では? 自らを覆う魔力を纏う膜を解けば、ルギウス(アルミスカ)様は日の光を浴びて消滅してしまうわ。どうしよう)



 そんな不安の中、アルデは彼の話を聞きながら頭を抱えた。

 それは初めて聞くことも多い内容なのに、まるで経験したように鮮明に思えたからだ。



「思い、出した……私は昔、バーバラとして生きて、ルギウス様とダンスをしたわ。どうして忘れていたのかしら?」


 アルデがルギウス(アルミスカ)にそれを伝えると、半信半疑だった気持ちから確信に変わることで、彼は驚愕する。


 あの時の彼女の服装や、仲間の男達の特徴、そして彼女にあげた琥珀のブローチの造型のこと等、本人でなければ知らないことだった。


「アルデはバーバラだったのか? でも何で蝙蝠になったの? 人間は死んだら、人間に生まれ変わるんだろ?」


 その疑問に、アルデは答える。


「私は戦場で多くを殺め、そして最期には私も魔剣で胸を突ら抜かれ死ぬところでした。けれどその時、戦争を楽しそうに傍観していた魔界の魔王が、私に囁きかけたのです。

『お前は人間としては強くて、戦闘センスもある。魔族として生きることを許そう』と、勝手に私の魂を人の道から外したのです。

 一瞬のことで拒否権もありませんでした。その後に私は魔属性の蝙蝠と変化し、人間の記憶が封印されたようです。

 他の蝙蝠達に嫌われたのも、人間あがりの蝙蝠を警戒してのことだったのでしょう。


 私はそこで死に魔族の輪廻にまわる筈が、ルギウス(アルミスカ)様に助けられたのでしょう」



 信じられない話だが、辻褄は合う。

 魔王様は時々、子孫が増えない魔族の数を増やす為に、力のある人間や天使を浚って魔族にするのだ。その際に記憶は封印される為、人間だったことは忘れてしまうらしい。

 

 当時のバーバラの魔力では、魔属性の蝙蝠が変化の限界だったのだろう。



「そうか。会いたかったよ、バーバラ。もう一度話をして、ダンスをしたかったんだ。……お帰りなさい」


 もうあの時のバーバラはいないけれど。

 ここにいるのは、ルギウス(アルミスカ)に力を与えられて子供の姿をしているアルデだけど。


 きっと魂が引き寄せられたのだ。

 ルギウス(アルミスカ)が潜在意識で求める気持ちが。





◇◇◇

 ルギウス(アルミスカ)はアルデに血を与え、さらに魔力を強くしたことで、彼女を幼女から大人へと成長させた。


「踊ってくれないか……アルデ。今はもう、人間は辞めたのだから、バーバラと呼ぶのはよそう」


 差し出された手に、自分の手を重ねたアルデはルギウス(アルミスカ)と踊り始めた。



「ルギウス様。もうサフランに未練はありませんよね? 彼女にある、アルミスカ様の記憶を消しますよね?」


 抱きしめられるように躍る中で、アルデは呟いた。

 彼女は蝙蝠の時に危機を救われ、それからずっと彼を愛していたのだ。



「ああ、すぐに消しに行こう。焦がれた者は僕の手の中にある。愛しているよ、アルデ」

「嬉しいです。ルギウス様」


 アルデはルギウスを失いたくなくて、必死だった。

 その思いが封印を破り、奇跡を起こしたのだ。


(もしかしたら、ルギウス様も元は人間なのかも? だから人間を愛したのかもしれないわ。まあそんなことは、今はどうでも良いことだけど)




◇◇◇

 その夜二人は蝙蝠に変化し眠るサフランの元へ。枕元でアルミスカの記憶を封印し、月夜に向かって羽を広げ飛び去って行く。


 その夜、サフランは夢を見た。

 漆黒の髪と碧眼の美しい男が、自分を裏切った悲しい夢を。


「もう最悪な夢ね。忘れよ、忘れよ」


 彼女は潜在意識で思い出したが、すぐに忘れて仕事に向かう。大好きなパンを作って、みんなの笑顔を見る為に。




◇◇◇

 その後もルギウスはアルデと連れだって、サフランのパンを買いに通う。

 今では帽子も被らない美形の夫婦は、その優雅な仕草等から貴族じゃないかと、周囲から憧れられていた。


 以前に共に来ていた幼女は最近いないが、学園に通い始めたのだろうと不審に思われることもなかった。



 周囲とは当たり障りない会話を楽しみ、喫茶店でパンと共に食事をして散歩を終えれば、蝙蝠となって空へ飛び立つ。


 パン屋に来る者達はルギウス夫婦を隣町に住み、馬車ででも行き来していると思っていることだろう。


 

「ああ、あの人。そう言えば、夢に出てきた人に似ているわ。格好良い人を勝手に夢に出演させて、振られるなんて恥ずかしい。きっとアズライン様への後ろめたさがあったのね。もう絶対、夢でも浮気はしないわ。ごめんね、アズライン様」


 サフランのアルミスカへの気持ちは、すっかり昇華したようだ。今後、思い出すこともないだろう。




◇◇◇

 月夜の晩。

 時々貴族が行うパーティーへ、催眠をかけて入り込むルギウスとアルデ。


 クルクルと煌めくホールで踊る美形の二人は、周囲の目を楽しませる。


 そして目に余る不埒な貴族がいれば、目星を付けて悪事を探り断罪していくのだ。暇潰しの為に。


 それによって救われた者の笑顔を見て、お互いに微笑むルギウスとアルデは、今日も楽しく月夜を飛び回る。


「僕の趣味に付き合わせて、ごめんね。不快じゃない?」

「心配しないで下さい、ルギウス様。私は眷族の時から楽しんでいましたよ。魔族より悪い人間は、放っておけないですからね。ふふふっ」


「なら良かった。楽しんでくれるなら、安心だ」

「ふふふっ。心配症ですね」

「勿論さ。君に嫌われたくないからね」

「まあ、嬉しい」



 孤独な魂は再び廻り合い、幸福に満たされたのだった。

 



◇◇◇ 

 サフランの魂がバーバラに似ていたのは、偶然ではなかった。

 彼女はバーバラの義弟、ブルレクトの子孫だったから。

 知らないうちに、バーバラの子孫を守ったルギウス。


 バーバラの守った義弟の命は、今も紡がれていくのだった。



 サフランがこれから生む予定の男の子は、ブルレクトだ。


 アルデはきっと気付き、再会を喜ぶだろう。






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