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カリム2

要件を済ませたビリーは、そそくさと来た道を戻って行った。

カリムが何処へ行くのか尋ねたからだ。


聞けば、ビリーは流れ者の面倒を見ていると言う。

「流れ者をですか?猫達はどうしました?」

流れ者の対応は猫達が持ち回りで担当していたはずだ。ビリーの仕事ではない。

カリムが不思議がっていると、急にビリーの口が重くなった。

「いや、まぁ色々とな」

「………」

察するところのあったカリムは、ビリー相手に眉をひそめる。

「隊長。お言葉ですが、そろそろ孫離れされた方がよろしいのでは?」

「馬鹿、アイツは孫じゃねぇよ。

…あ」

見事に鎌をかけられたビリーは気まずそうに目を逸らす。

そんな隊長の情けない姿に、カリムは深い溜め息を吐いた。

「隊長。チビはまだ子供ですが、赤ん坊ではないのですよ。

幼い頃からずっと面倒を見てきて、可愛くて仕方ないのは分かりますが、もう少し適切な距離感を持って下さい。

隊長がこれでは、彼の成長の妨げにもなりかねません」

「………そんなに甘やかしちゃねぇぞ?」

「では、次は彼自身に任せて下さいね」

「おぅ」

こうして、部下からの叱責にたまりかね、ビリーは早々に場を離れたのだった。



ビリーが去ったあと、カリムはもう一人の隊員を呼び出した。

呼び出された軍鶏のテオは、まだ少し眠そうな顔をして欠伸を繰り返している。

「なんだよ、カリム…まだ真夜中じゃないか。俺の出番には三時間早いぞ」

「すまん、急用ができた。魔女のところへ行くから見張りを代わってくれ」

全く申し訳なさそうではない態度でカリムはテオに淡々と告げる。

「は?おいおい、何だよ急に」

「そうだ。急だから急用なんだ」

「止めろ、面倒臭い。禅問答みたいな事言ってないで説明しろよ」

やっとテオの頭がはっきりしてきたようで、繰り返していた欠伸がようやく止まった。

「目が覚めたか?なら説明する。

ビリー隊長から先程の遠吠えはMr.BBの侵入だと報告があった。これに関しては、我々は継続して警戒強化だ。

これと並行して、あの見えない『何か』の捜索も継続」

「あ~、さっきの遠吠えは風船野郎だったか。久しぶりだな。

けど、風船野郎の思い人は居ないんだろ?なら監視だけでいいんじゃなかったか?」

カリムがテオを思い切り睨みつける。

「そうだ。だが軽んじるな。それと話は最後まで聞け」

苛立ったカリムの眼力にテオが怯んだ。

「寝起きにそんな怒るなよ…」

「リンが行方不明らしい。家にも職場にも居ないそうだ。こっちではアンも帰ってない。

アンだけなら放っておくんだが、リンも居ないとなると無視できん。

見えない『何か』の件もあるし、事が重なり過ぎている」

「なんだ?リンちゃんも居ないのか?

そりゃ、何というか…確かに色々と重なり過ぎてて気味が悪いな」

「だろう?隊長の遠吠えは魔女にも届いていると思うが、念の為、まとめて報告した上で魔女の支持を仰ぎたい。

隊長の許可も取ってある」

実際にビリーの許可は取ってあるが、カリムはそのビリーが流れ者の対応に追われている事はあえて伏せた。

 いささかの誤解は生じるだろうが、許容範囲だろう。隊長はいつもそれだけの仕事をなしているのだから。

事実、テオはビリーの動向には一切触れず、カリムの言葉だけを受け取ってくれた。

「はぁ。相変わらず隊長は最前線を突っ走ってるわけだ。

いいぜ。見張りは代わるから、さっさと魔女のとこ行ってきな」



カリムは魔女が居るであろう、壊れた橋の修復現場に向かって飛び立った。


初めは街の中心部、チョコレート姫の居城を目指して飛行するつもりだったのだが、出発直前テオに止められたのだ。

「あぁ!待て待て!カリム、方向が違うぞ」

驚いて前につんのめったカリムは、またテオを睨みつけた。

「このタイミングで言うな!危ないだろ!」

「すまん。飛ぶヤツのタイミングは分からなくてな」

飛べない鳥にそう言われるとカリムも言い返せず、ただ咳払いをする。

「で?どう違うんだ。今日は巡回日で、この時間ならまだ魔女は街に留まっているはずだろう?」

街は広く住人も多いため、魔女が街を巡回する時は一泊二日が常だ。

故に、何事もなければ魔女はまだ街に居る時間である。

しかし、テオは首を振った。

「一昨日、チョコ姫が何かやらかしたらしくてな。魔女が街に一日前乗りしてるんだ」

「何?」

「だからもう街は出てるはずだ。今居るとしたら、橋の修復現場の方だと思う」

カリムの目がきっと吊り上がった。

「俺はそんな報告は受けていないぞ」

「あ」

テオはばつの悪そうな顔で声を漏らした。


そうして、カリムは今、橋の修復現場に向かっている。

カリムが空を飛ぶ姿は涼しげで、余計なことなど何も考えていないように見えるが、今、彼の腹の内は煮えくり返りそうだった。

 全く…報告を怠るなんて、最近のテオは随分と平和ボケしてしまった。

ビリーの率いていた先鋭部隊も、今や自警団のようなものだ。

治安の維持管理が主な目的で、荒っぽい仕事は殆んどない。

良くて喧嘩の制裁。何もなければ酔っぱらいの介抱や、年寄りや子供の安全指導。

持ち場の巡回や見張りだけで、本当に何もせず終わる日も多い。

おかげで、隊長であるビリー本人ですら、自らを番犬と言い出す始末だ。

 まぁ、そんな日々を求めてここに居るのだから、これはこれで、あるべき正しい形なのかもしれないが…。


溜飲が下がってきたところで、カリムは白夜の空を見る。

 この空がMr.BBの仕業だという事も、もう皆、忘れてしまったのだろうか。


もう五十年以上前になる。

Mr.BBは魔女を探して、この世界に入り込んだ。

当初、侵入者とはいえ、その目的もはっきりしていた為、Mr.BBは監視付きながらも自由な行動を許されていた。

カリムは彼のその軽薄な口ぶりが気に障ったが、それ以外取り立てて問題はない。

少々執着心の強いだけの、普通の男だと誰もが思っていた。

だが、彼が当時の魔女、『炎の魔女』と面会して事態は一変する。

炎の魔女が彼の探していた人物では無いと分かると、Mr.BBは嘆き悲しみ慟哭し、突然、橋に向かって攻撃魔法を使った。


ありえない事だった。

この世界において、魔法を使えるのは唯一魔女だけ。

他の者がその加護を受ける事があっても、魔法を使えるようにはならない。

それなのに、Mr.BBは魔法が使えたのだ。


そして。

Mr.BBの攻撃は同じく魔法を使える炎の魔女でも止められず、多くの怪我人も出た。

更に、橋は地球とこの世界の自転を合わせる機能も持ち合わせていたため、あれ以来、この世界の巡りは徐々におかしくなり、こうして白夜が訪れるようにもなった。

それは未だに修復できていない大きな傷として、今も彼らの生活に深く影響を及ぼしている。


カリムはあの衝撃を今も忘れていない。

あれは感情的で、理不尽な攻撃だった。

あんな事を繰り返させてはならない。

 だからこそ、俺達まで平和ボケしてはならないだろう…。

暮れる事のない太陽を横目に、カリムは口を嚙み締めた。


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