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光るもの

チビは何が起こったのか確認しようと、水辺に戻り水の中を覗き込んだ。

しかし、水の中はまるで何事もなかったように澄んでいて、水底の泥までよく見える。

そして、その水底に一切の乱れはなく、何かが噴き出したり、落ちてきた様子もない。


 ………え?気のせい、だったのかな?

あまりに何の痕跡もないので、チビは自分の記憶を疑った。

まだ納得できていなかったが、泉もその周辺も何の異変もないので、チビは溜め息を吐いて水面から顔を上げた。

そして念のためもう一度、泉の真ん中、さっき光るものが浮いていた辺りを確認する。


すると今度は泉の真ん中に、何かが凄い勢いで落ちて…いや突っ込んできた。


泉に突っ込んできたそれは、ばっしゃーんと大きな水飛沫を上げ泉に沈み、逃げるのが間に合わなかったチビはその水飛沫を全身に浴びてびしょ濡れになった。

 なっ…水が噴き上げたと思ったら、今度は何か突っ込んできた⁉


チビは身震いして体にまとわりつく水滴を振り払い、もう一度泉を見た。

何かの落ちた衝撃で、今度は水面が激しく波打っている。

 あ~。これはさっきのと違って、確かに泉と接触してるんだ…。

チビは揺れる水面に顔を近付け、そっと中を覗き込んだ。

だが、先程の何かは水底にまで衝撃を与えていたようで、澄んでいた泉の水は泥が舞い上がり、すっかり澱んでしまっていて、水の中が全く見えない。

 何だったんだろ、一体。でも何か、怖くはない…な。

いつもなら、これだけの事が起これば怖くてその場を離れたくなるチビなのに、今は不思議と怖くない。むしろ、これが何か知りたいという好奇心の方が勝っていた。

チビは泉に沈んでいるものが何か知りたくて、じっと水が澄んでいくのを待った。


幸い、この泉は小川へつながる流れがあったため、泥が沈み、濁りが川下へと流れ、澱みが解消されていくのは早かった。

そして、ようやく水底が見通せるようになると、チビは水底に丸いものを見つけた。


ソレは泉の水が湧き出し口の辺りで、水の湧き出す流れの上に乗っている。

まるで水中の噴水の上で、ボールがくるくると回るっていような感じだ。

ただソレはどうやら透明で、まだ僅かに残る水の濁りと周辺の水流との違いで、ソレがそこに在る事は分かるものの…丸いものということ以外よく分からない。

 なんだろう…水晶玉、みたいな?

よく見ていないと見失ってしまいそうなソレを、チビは水辺からじっと目で追った。


ソレはしばらく水の中で留まっていたが、だんだんと湧き水に押し上げられ、水面へ顔を出した。

水面に浮きあがったソレは、やはり透明な水晶玉のようなもので、水面に浮き上がった部分には細かい筋が入っているのが確認できる。

 模様?いや、ヒビだろうなぁ。さっき落ちたせいでヒビ入ったのかな?


ソレは水面に上がってくると、水の流れに乗って川下へと転がっていく。

 川に入るところで引っかかったら、捕まえられるかも。

チビはすぐに泉と川の境目に走り、ソレが流れてくるのを待ち受けた。

ソレは水面でぷかぷかと浮き沈みしながら、川下へと順調に進んでいく。

チビはソレが自分の手の届くところに流れてくるのを願いながら、じっと身を構えた。

 あと少し、もう少し…。


 今だっ‼

チビは素早く前足を伸ばして、ソレを水面から弾き出した。

弾き出された勢いでソレはぽーんと宙に跳ね上がり、チビの前を通り過ぎて少し離れた後方の木にぶつかった。

ごんっという鈍い音が森の中で響く。


 あっ…飛ばし過ぎた。

透明なソレを見失ってしまったチビは、先程の衝突音を頼りに、落ちた場所を探した。

 たぶんこの辺だと思うんだけど…。

チビは足元と、木の幹に残るであろう衝突の跡を見比べつつ、慎重に森を進む。

しかし、目星を付けた場所を隈なく探してみても、それらしきものは見つからない。

それほど遠くまでは飛んでいないはずだが、透明なソレを手がかりなしに探すのはなかなか難しい。

 これ、どうやって探そう…ビリ爺じゃあるまいし臭いじゃ探せないしなぁ。


チビは薄暗い森を見渡して、すぐに諦めモードに入った。

 まぁ、別に見付からなくてもいいか。

ちょっとだけ残念な気持ちもあるが、今はもうあの透明なものに、探すだけの価値を感じない。

チビは溜め息を吐いて気持ちを切り替えると、泉に引き返すことにした。


 最初の予定通り、水だけ飲んで帰ろう。


 なんだか今日は変な事の多い日だな。流れ者にMr.BBに、あの水晶玉っぽいのも。

 こんな日は早く寝た方がいいよね。

チビは目を閉じて、帰って寝る事だけ考えながら泉の水辺に立った。

 あ、そっか。泉の冷たい水を飲んだら厄払いになるかも。

 そしたら、この変な流れも収まるかな。


チビは目を開けて泉の水面に顔を近付けて、

そして、隣に人が居る事に気が付いた。



チビのすぐ右隣、川より泉が近い方に少女が座っていた。

淡い桜色のワンピースに白いカーディガンを羽織った少女。緩いウェーブのかかった栗色の髪をハーフツインテールにまとめていて、まるでお人形のようだ。

年は先程の流れ者の少年よりは少し下だろうか?


チビが少女の存在に気付いて固まると、少女の方はそれを解きほぐすように、にっこりと笑顔を返す。

「こんにちは」

見た目より落ち着いた振る舞いで、少女はチビに挨拶をした。

「………こ、んにちは」

少女の振る舞いとは正反対に、チビの頭の中はパニックに陥っていた。


 何?なになになになに⁉どういう事⁉

 この子、誰?どこの子、どこから現われた⁉さっきの水晶玉?まさか!飛んでったの森の方だし、ありえないでしょ!

 え、てか人間⁉この子、人間の女の子?え、じゃあ、この子も流れ者?噓でしょ⁉

 流れ者なんて年に一人でも珍しいのに、同じ日にもう一人とかマジでありえない‼

 …あーでも、こんな子知らないし…どうすればいいの、これ‼



 ………いっそ、本人に聞くか。

パニックが一周して、チビは意を決した。


「あの、さ。君、どこの誰?ここで何してるの?」

緊張で少し声を掠れさせながら、チビは少女に尋ねた。

すると少女はぱっと明るい笑顔を見せてチビに答える。

「私、たぶんリーベ。どこから来たのかは覚えてないの。ごめんね」

「たぶん、リーベ?

えっと、名前は憶えてるけど、あとは覚えてないって事?」

チビはお腹の奥がきゅっと冷たく縮む感じがして体が震えた。

「そう、そんな感じ」

少女…リーベは微笑んで答えるが、チビはその答えに卒倒しそうな思いをしていた。


 流れ者じゃん………!


なんとか一人はビリ爺に押し付けてきたのに、どうやら流れ者はもう一人居たようだ。


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