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別行動

「おっ、どうだった⁉おリンさん居たか?」

玄関から出てきた僕を見て、コースケが前のめりに声をかけてきた。

けど僕が何か言うより先に、僕の表情から全て察したようで、がっくりと肩を落とす。

「あ~、やっぱ居なかったか…」

「うん…残念だけど」


結局クローゼットの中には誰も居なかった。

当たり前だ。

むしろ、リンさんが居るほうが怖い。

実際、僕はクローゼットの扉を開ける瞬間、肝試しみたいに怖かった。

「家の中を全部…お風呂もクローゼットも見てきたけど、誰も居なかったよ」

「そうか、ありがとなソラ。じゃあ…

「待て。ソラ、台所は?あそこに床下収納あっただろ?中は見たか?」

一瞬、僕とビリーの時間が止まる。

「…おい、まて。正気かコースケ?」

「え、ゴメン。床下収納は気付かなくて…」

「よし!じゃあ、今度は俺が見てくる!」

そう宣言するとコースケは僕らを置いて、バタバタと家の中に飛び込んでいった。


「アイツ、床下って…。俺は、そんなとこからリンが出てくるなんて、想像したくねぇよ」

「うん…。でも、たぶん出てこないと思うよ」

また一人で突っ走ってしまったコースケに、僕たちは青ざめた顔を見せあった。

思わずクローゼットを開けた僕が言えたことじゃないけど、床下収納に自分から入るような人は、あまりいないだろう。

もちろん、リンさんを探すのが目的だから、見付かりそうな所を全部確認するのは当然なんだけど…床下収納の存在にまで思い至るコースケが、少し怖いと思った。


「…えっと。ビリー、この後どうする?」

コースケが床下収納からリンさんを見付けてくる可能性は、今のところ低い。

なら次は他の場所を探しに行くのだろうけど、何処か他にあてがあるのだろうか?

「あぁ、そうだなぁ。時間が時間だし、リンが他に行くとしたら、だぶん姉さんと…ん?」

ビリーが驚いて、まじまじと僕の顔を見る。

「え…?え、何なに?」

「いゃ、お前さん、あんなに太陽が見たいって言ってたじゃねぇか。忘れたのか?」

「…あっ‼」

(そうだ!白夜の太陽を見るんだった!)

「忘れてやがったな?あんなに夢中だったのに、どうした?どっか調子悪いか?」

ビリーがちょっと意地悪く、にやにや笑う。

「いや、なんかすごく緊張してたから…」

「まぁいいさ。そうだな、そうすると太陽見てから、アンのとこに…あぁ、いや…」

ビリーが何やら顔色を変えて考え込む。

「…アンさんって、リンさんの家族?」

「あぁ。アンはリンの姉さんだよ」


アンさんの家は、ここから更に南に行った所にある大きな集落にあり、そこにはビリーの番犬仲間の詰所もあるそうだ。

ビリーはついでにMr.BBの件の報告もしたいので、顔を出してきたいのだと言う。

「じゃあ、太陽は今度でいいから、コースケが戻ったら先にアンさんの所に行こう」

太陽が見られないのは少し残念だけど、リンさんが結局家にも居なかったのだから、今はリンさんを探す方が優先だ。

(それに、歩き出せば何処かにちょっとくらい太陽が見える場所があるかもしれない)

「そりゃあ、そうしたいが…他の所じゃ確実に太陽が見えるかどうか分かんねぇぞ?」

「なんだよ、お前等。また太陽の話かよ…」


いつの間にか、コースケが戻っていた。

どんより暗い顔をして、どこか生気がない。

声がするまで気配もなかったし、ちょっと見ない間に別人にでもなったみたいだ。

「コースケ、大丈夫?」

「おリンさん、やっぱ居なかったわ…」

「そうか…まぁ、逆に良かったと思っとけ」

「はぁっ⁉全然良いわけねぇだろ‼何言ってんだ、この野郎‼」

コースケが急に怒りだしてビリーに掴みかかるので、僕は慌ててコースケを後ろから羽交い絞めにして声を上げた。

「違う!違うよコースケ‼そうじゃなくて!リンさんが床下から見つかる方が怖いって!」

「あ⁉ソラ、お前まで何を…」

「馬鹿野郎!床下って、そりゃあ、ほぼ生きてねぇやつだろうが⁉」

「はぁ⁉………ああっ‼」


ビリーに怒鳴られて、やっと冷静になったコースケは、僕たちに膝をついて謝った。

「いや、本当すみませんでした。そんな可能性全く考えもせず…完全に早とちりでした」

「ったく、肝心なところで考えが足りねぇな。

いい年なんだから、もう少し落ち着けよ?」

「はい。それはもう、おっしゃる通りです」

コースケは一言ごとに深く頭を下げていくから、そろそろ土下座してしまいそうだ。

「ねぇコースケ、もういいから顔上げてよ」

「いえ、もう本当にソラさんにもご迷惑を…」

「あ~、タメ口って言ったのコースケじゃん」

ここでビリーが何かに気付いたように、下からコースケの顔を覗き込む。

「あ、ソラ。コイツ笑ってるぞ?気味悪ぃな」

「えぇ…?」

途端にコースケがふっと吹き出した。

「いやぁ、悪ぃ。なんかおリンさん居ねぇだけで、死んじまったような気がしてさ。

別にそんな訳ねぇのに…本当焦ったわ」

そう言ってコースケは顔を上げ、にっと笑った。でもその目尻には涙が滲んでいる。

「そんで次どうする?医者の所、戻るか?」

「…あぁ。次はアンの家に行こうと思ってるんだが…コースケ、お前さんはどうする?」


「あ?あ~、えーっと…」

『行く』と即答すると思っていた僕の予想に反して、コースケは何とも渋い顔をした。

「え?コースケ、行かないの?」

「いや、行きてぇんだけど。あそこはなぁ…」

「無理するな。誰にでも相性はある」

ビリーがそれとなく止めるが、それでもコースケは返事を決めきれずに悩んでいる。

「何か、コースケの苦手なものがあるの?」

「んー苦手っちゃ、苦手なんだけどよぉ」

僕の言葉も届いているのかいないのか。

コースケがまだ悩んているのを見て、ビリーが代わりに答えてくれた。

「あそこは鳥の集落で、アンも鳥なんだよ」

「…え、鳥?」

「そうだ、でっかい鳥。なんて言ったかな?

名前は忘れたが、白くてでかいオウムだ」

「へぇ?あ、もしかして…」

コースケがトカゲで、アンさんが鳥。だとしたら、それは…

「なーんか、食われちまいそうでよぉ」


「まぁアンはリンと違って気も強ぇし、元々コースケとは仲悪かったから、尚更だな」

「いや、仲悪いって言うか、俺がアンさんから一方的に嫌われてんだけど?」

「コースケ、お前、昔から相手も選ばずおふざけが過ぎんだよ。少し気を付けろ」

「…へーい」

確かに、人との距離が近いコースケだ。

僕はその近さが好きだけど、人によって好き嫌いが分かれるのかもしれない。

(だけど、アンさんが鳥なら、リンさんは?)

「ねぇ。アンさんとリンさんって姉妹なんだよね?なら、リンさんも鳥なの?」

「あぁ、いや…リンは」

「違ぇぞ、ソラ!おリンさんはウサギだ。

茶色くて耳が垂れてて、超可愛いんだ!

それにおリンさんは優しくて料理も上手で…お前も食っただろ、おリンさんの料理!あれ、すっげぇ美味かっただろ?な?」

(やっぱり、リンさんは鳥じゃないんだ)

コースケがこんなにリンさんを好きだから、鳥じゃないんだろうなとは思ったけど…。

それにしても。リンさんについて話すコースケは、本当に生き生きしている。

「おい、だから、ちょっと落ち着けコースケ。

それで?お前さんは留守番でいいか?」

「あーいや…どうするかなぁ」

「もし留守番するなら頼みたい事がある。

ソラを裏の丘まで連れてってやってくれ」


「え?」

「あぁ、そりゃ別にいいけど。じゃあ、アンさんのとこはアンタ一人で行くのか?」

「ちょいと遠いしな。お前さんが来ないならソラは歩く事になるし別行動のがいいだろ」

(太陽のことは今度でいいって…それに足だってもう痛くないのに…)

「あの!ビリー、僕も…」

「大丈夫だ。お前さんは太陽見て、そのあとコースケと丘の下の原っぱで待っててくれ。

俺一人なら走って行けるから、三人で行く半分くらいの時間で済むしな」

「あ…」

そうだ。忘れてたけど、ビリーは犬だ。一人なら僕やコースケより、ずっと早く走れる。

それにリンさんを探すなら、出来るだけ早く動いた方が良いに決まってる。

(それはそうなんだけど…)

「なに、ちゃっちゃっと小一時間で戻るさ。

それくらいなら平気だろ、ソラ?」

ビリーにそう言われると断ることもできず、僕は不安を飲み込んで、静かに頷いた。


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