表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

リンの家

あのあと、僕とコースケも、ビリーと同じように膝掛けを肩に掛けてマントにした。

思いの外、ビリーの機嫌を損ねたからだ。

ビリーは怒って『膝掛けマントを外せ』と言ったけど、コースケが『ビリーが膝掛けを使ってないと、こっちが使いにくい』と言って、それで考え出された妥協策だ。

全員マント姿になると、お互い腹を抱えて笑い合って仲直り。

それからやっと、僕達はリンさんの家に向かって出発した。


それと。僕は結局またコースケのリヤカーの荷台に乗せてもらった。

膝の怪我はもう全然痛くなかったけど、ビリーからもう夜中だと聞かされて、さすがに少し休んだ方がいいなと思ったからだ。

ただ到着まで三十分しかないとなれば、半端に寝る方が辛そうで、返って眠れない。

僕は結局、到着まで眠らずに、ずっと二人にあれこれ質問をしていた。

でも僕の質問が全部白夜のことで、あまりの質問の多さに二人とも終始引いていた。

二人とも白夜にはあまり詳しくないらしく、最後の方は『夢中になれることがあるのは良いな』と、適当に誤魔化されてしまった。


そんな中、ふと何かに気付いたようにコースケが声を上げた。

「ちょっと待て。さっきから何かおかしいな〜と思ってたんだけどよ?

ソラ、お前もしかして俺にだけ『~です、~ます』って言ってる?」

「あー…」

「あっ!酷ぇ、なんだよそれ!俺だけ仲間外れみたいじゃんかよ!」

「いや、そんなつもりはないんですけど…」

今度は僕が答えに詰まってしまった。

悪気なんてないけど、コースケと出会ってまだ数時間だ。とてもタメ口では話せない。

(みんな、そういうものじゃないだろうか?)

「あぁ、ソラは最初、俺にも敬語だったぞ?」

「うわー、マジで?」

「あぁ。だから俺の方から『タメ口にしてくれ』って言ったんだ」

「えー、じゃ俺にもタメ口にしろよ。なんか壁あるなぁって、寂しかったんだぞ?」

「えぇ…」

「はい、決まりー。今から敬語禁止。

これからは俺のことも呼び捨てな?」

「えーっ………」

ここから一気に僕の言葉数が減って、先程とは打って変わって大人しくなったので、

「お前…そんなにタメ口苦手かよ?」

と、コースケが半ば呆れていた。


リンさんの家が見えたのはその頃だった。

周囲の木がまばらになり、森が林に変わったところで、道の先に小高い丘が見えた。

その丘の一番高いところに小さな小屋が建っている。これがリンさんの家らしい。

あの医者の家より一回り小さいだろうか?

でも、白く塗られた壁と焦げ茶の屋根、庭先には花壇もあって、外観は医者の掘っ立て小屋のような家より、ずっと家らしい。


リンさんの家が見えると、コースケの歩くペースがぐんと上がった。

丘を登る道は左右にくねくねとうねっている分、見た目以上に距離が長いが、コースケは小回りを利かせ上手に登って行く。

そしてだんだん家が近付くと、コースケが更にペースを上げて心配そうにつぶやく。

「なんか…おリンさん家、暗くねぇか?」

外が明るくて分かりにくかったが、確かにリンさんの家は灯りが点いてなさそうだ。

「まぁ時間的には夜中だ。寝てるかもな」

そう言いつつも心配なのか、ビリーが駆け足で家の前に行き、先に中の様子を伺う。

「おい、リン!居るか?」

「おリンさーん、こんばんはー!」

ビリーとコースケが家の外から代わる代わる声をかけるが、暗く静まり返った屋内から返事は無かった。


「仕方ねぇな。ちょっと中、入ってみるか」

そう言ってビリーが玄関扉に足をかける。と、コースケからストップがかかった。

「ちょい待ち!こんな時間に、おっさんが女の家に許可なく入るもんじゃねぇよ」

「…なら、お前が行け、コースケ」

ビリーが不愉快そうに、扉の前を譲る。

しかしコースケは両手を上げて断った。

「いや、そんなの俺だってダメだろ!そんな事したら、おリンさんに嫌われちまう‼」

「お前なぁ。じゃあ、どうするってんだ?」

「あ、いや。えーっと…」

コースケが困ったように僕を見た。

「………え、僕⁉」

「いやぁ…。たぶん、おっさんやお兄さんが行くよりはいいだろ?」

「あぁ、なるほど。ソラが居るか」

焦る僕を横目に、二人が勝手に納得するので、僕は慌てて否定する。

「いや、ちょっと待ってよ!それを言うなら、僕は一度もリンさんに会ったこと無いよ。

急に知らないヤツが入ってくるより、知り合いの方がいくらかマシなんじゃない?」

「あぁ…まぁ。それもそうか」

「いや、知り合いの方がアウトだろ。

知ってるおっさんやお兄さんより、知らねぇ子供だ。そっちのが絶対マシだって」

「いや、そんなことは…」

「ソラ、お前すげぇ善良そうな顔してっから大丈夫だよ。頼む!」

(家に突然入って来るヤツに、善良そうも何もないと思うけど…)

コースケのゴリ押しに押し切られ、結局リンさんの家には、僕が入ることになった。



「えっと…リンさん、入りますねー…」

ビリーとコースケが見守る中、僕はリンさんの家の玄関の扉をゆっくり開けた。

この時間、家の中は外よりも更に薄暗く、窓から低く差し込む光が、静かな屋内に怪しげな雰囲気を漂わせている。

(まるで、人の侵入を拒んでるみたいだ)

僕は緊張に息をのんで、中に入った。


玄関には桜色の玄関マットと、同じ色のスリッパが一足きちんと揃えておかれている。

それと、右の靴箱の上には赤い小菊が活けられた花瓶、左の壁には白いオウムの絵も掛けられている。

(なんか丁寧に暮らしてるって感じがあるのに、人気が無いだけで全部不気味…)

僕はなんとなく音を立てたくなくて、そっと靴を脱ぎスリッパは履かずに家に上がった。

と同時に、ぎぃと音がして玄関扉が閉まる。

思わず後ろを振り返るけど、普通に扉が閉まっただけで、そこには何もない。

(こんなので…ビビり過ぎだ)

僕は鳥肌の立った両腕を撫でながら、恐怖を押し殺して、家の中を進んだ。


入るとすぐ左に、花柄の暖簾で仕切られた畳半畳分の収納スペースがあった。

そっと暖簾を上げて中を覗いたけど、そこは荷物で溢れ人が隠れるスペースはない。

続いて、その先にある扉の前に立った。

扉をノックしてからそっと開けると、そこはトイレだった。ここにも誰も居ない。

次にトイレの隣にある扉も開ける。

こちらは洗面脱衣所で、入って右側にもう一つ扉があり、その中に浴室があった。

浴室への扉は半開きだったので、隙間から覗いたが、やはり誰もおらず、浴槽の水は抜かれていて、今日使った形跡もない。

ここで廊下が突き当りになり、今度は廊下の反対側、右側の部屋を確認する。


右側は扉がない代わりに、部屋への出入り口が一つ、花柄の暖簾で仕切られていた。

(リンさんが居るとしたら、こっちだろうな)

「リンさーん、いらっしゃいますかー?」

僕は改めて声をかけながら、中に入った。

入った先の部屋は一続き大きな部屋になっていて、廊下の突き当り側が台所と食卓スペース、玄関側が居室となっている。

僕は先に台所に目をやったけど、こちらは近付くまでもなく誰も居ない。

壁側に流しやコンロ、備え付けの吊戸棚と、天井まで届く収納棚。それと椅子が二つセットになった小さな食卓テーブル。

その全てが一目で見渡せるのだ。

だから、ここが最後。

残る居室スペースを確認した。


(ここで人を探すなら、やっぱベッドかな?)

でもそのベッドは、布団がきちんと畳まれて端に寄せられていたので、こちらも一目で誰も居ないと分かる。

他にあるのは小さな机と座椅子、そして丈の長い服を掛けて仕舞えるクローゼット。


クローゼット。

(………いや、まさかでしょ?)

僕は一瞬で血の気が引いて、緊張で掌に汗が滲んできた。

でも、ここまで来たからには、ちゃんと確認しないと意味がない。

僕は掌の汗を服で拭い、少し震える手でクローゼットの扉を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ