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呟きにエリルシア自身が反論する。
「……違うわ…そんな考え、なかったと思うの…。
ただヴィンデの血を残したかった、お母様を救いたかった……きっとそれだけだった、はず…」
前世以前の過去の記憶達が再び呟く。
『けれど、どう見ても実験体だ』
エリルシアはぼんやりと小部屋の天井を振り仰ぐ。
「…そう……ね…。
でも…対抗策は……必要、だわ」
『それには同意する』
『確かに。
でもまぁ…予測のつかない実験ほど不安な物もないけれどね』
前世以前の記憶達の呟き……けれどそれもエリルシア自身だ。
エリルシアは一人そんな思いを抱え、そっと双眸を伏せた。
「閣下、申し訳ございません。
こんな物が…」
「何だ?
今は見ての通り、ラフィラス様から提案のあった宿場町の選定に忙しいのだが?」
騎士が何やら書簡を持ってきたが、本当に忙しいらしく、ジョストル・ロージントは苦り切った顔で振り返る。
そこに年若い文官が疲れ切ったように…だが、若干の喜悦を含ませて応じた。
「でも、これ、いい提案です!
俺達は忙しくなりますが、ある程度等間隔で宿場を儲けると言うのは」
「えぇ、私もそう思います。
これまでは宿場と言っても自然発生的に集った村って感じでしたし」
ジョストルは、周囲に振り回されるだけ振り回されて育った不憫なラフィラスに、いつかはレヴァンを側近に…と考えていた。
勿論、幼い孫をそのまま付ける気はなかったので、一旦ネデルミスの学校に避難させたが、成長し己が考えで動けると判断した為戻るよう指示し、ラフィラスに付けた。
当然ながら背景には、滞在国であるネデルミス王女の問題も大いに影響している。
ネデルミス王国の現王プルガ・ネデルミスは悪い王ではない。
本人は脳筋思考の面倒くさがりだが、周囲を有能な官僚で固める事に反発したりはしないので、政は一見滞りなく行われている。
しかし全く問題がない訳ではない。
身内に無頓着すぎるのだ。
奥向きで正妃が、側妃や妾を放逐している事も小耳に挟んではいたが、然程重大な事とは考えていなかった。
正妃や正妃の娘であるベスピネがしっかりしている事で、安直に任せておけば良いとでも思っていたのだろう。
実際、プルチェが他国の公子…レヴァンに纏わり付き迷惑を掛けた一件でも、プルガは形式通りの謝罪文を送った後の事は、正妃や官僚達に丸投げにしていた。
しかし正妃やその娘のベスピネは、最初から側妃、妾達に関与する気はないので、フォロー等しているはずもない。
結果、官僚や学校側との遣り取りで終わってしまったので、本当はラフィラスに集るコバエを排除してから、レヴァンの帰国を考えていたのだが、前倒ししてあの時期になった。
最終的に、一人の侯爵令嬢を生贄にする形で収束したが、あの一件はジョストルにも暗い影を落としている。
生贄となった侯爵令嬢というのが不味かった。
家族と領民を大事にするウィスティリス一家は、怒鳴る訳でも何でもなく、無言で王宮から逃走した。
外交で重要な案件を幾つも抱えられる程、実は有能なティルナスが引き継ぎもなく王宮から消えたのだ。
その後の状況等、容易く想像出来る。
その上、王宮側からどれほど要請しても、最早土下座の勢いで頼み込んでも、笑顔で無視を決め込まれてしまった。
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