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それに…と、ふと別視点から見た場合を考えてみた。
ロズリンド王国王太子ラカールが、纏まる寸前の国家間の政略婚約話にそっぽを向き、自身の恋人の手を取った。その為ロズリンド王国からベネティ・マグノリア公爵令嬢が大国ネデルミスの公爵家へ嫁ぎ、ネデルミス王国からはエリミア・ヴィンデ侯爵令嬢が嫁いできた。
しかし表向きは兎も角、実態としてはかなり落差があるのではないだろうか?
ロズリンドは大国ではないけれど、その重鎮である公爵家の御令嬢と、没落どころか天涯孤独……いや、身売りするかしないかにまで追い込まれた侯爵令嬢……。
これが等価交換である訳がない。
勿論、血筋の重さなら……管理者の血筋としてこの世界の維持に関与するらしいヴィンデ家の令嬢としてなら、決して見劣りする縁組ではない。
しかし、当の管理者の血筋に生まれたエリルシアでさえ、今、この部屋に入らなければ知らなかった事が多い。
両親が知っていたとは思えない。
祖父母はしっかりしていて、可能性を持つ者が生まれれば話したかもしれないが、残念な事に両親は可能性がなかったのではないかと思う。
両親なら領が窮地に陥った時、既に成人していたのだから魔力器官を持っていたとしてその機能に問題はなかった筈……であれば、ロザリーと対面していたのは両親ではないだろうか…と思うのだ。
……その辺はまだ何の確証もないけれど……。
何にせよ、全く等価には見えなかったと思われる。
何か……他にも何かあったのではないだろうか?
エリルシアは組んでいた腕を無意識に組み替えて唸るが、やはり手掛りがなければ先を考えるのは難しい。
再び冊子の方へ目を向ける。
もう半分以上読み終えていて、未読頁はそう多くない。
そして冊子の最後まで辿り着いた。
どうやらこれ以上の情報は冊子ではなく、魔具の方に保管されているようだ。
エリルシアはレンズの組み込まれた映写機っぽい魔具に近付く。
冊子に書かれていた通りにボタンの一つに触れると、それと同時に映写魔具上部の空間が歪んだ。
少しして歪みが安定すると、そこには懐かしい姿が投影されていた。
御祖母様……いや、エリルシアの知る姿よりかなり若い。
それだけでなく、この領で暮らしていた時には見た事もない程豪奢なドレスに身を包んだ、高貴な女性の姿だ。
まだ祖父に嫁ぐ前の記録だろうか…。
彼女は一方的に冊子にあった内容を話す。
それが一段落すると映像が再び揺れた。
今度はさっきまでより幾分年齢を重ねた頃だろう。
装いも随分と落ち着いて見え、もしかするとウィスティリス家に嫁いだ後かもしれない。
祖母ティリエラはずっと調べ続けていたらしい。
徐々に年齢を重ねていく祖母の姿を見るのは、そしてそれが語る声を聴くのは、何とも言えず不思議な気分だ。
そして母エリミアを迎えた顛末にも触れていた。
詳細は別に纏めてある様だが、やはりと言うか何と言うか……ラカール王太子の婚約拒否の裏には、ネデルミス側にちょっとした動きがあったようだ。
『一部の貴族による』と言っているが、ティリエラ側…延いてはロズリンド側の希望を通さざるを得ない何かがあったようだ。
この辺は後程、別に纏められたと言うモノを探そうと思う。
その間も映像は進んでいた。
映像が進む度、都度撮影して残したであろう事が窺い知れる映像は、まるで年単位の早送り映像の様で、見る間に年老いていく祖母の姿は、エリルシアに胸が締め付けられるような、不可思議な感覚を齎す。
大好きだった祖母の姿を見る事が出来た嬉しさは当然ある。だが、年齢を重ねるごとに険しさを増す表情に苦しさを覚えたのだ。
相反する感情が、エリルシアの内側で渦巻いた。
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