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室内は手前の書庫と然程変わらない。
違いは窓が一つもなくて薄暗い事…くらいだろうか。
エリルシアは自分の指先を見つめる。
確かに何かに触れた感触を感じた。と言う事は、壁は幻覚ではなかった可能性がある。
床も見るが何も落ちていない。
(……ぁ、そう言う事……。
封印とか、そういう性質の物なのではないかしら…。
魔具で封印されてたか何か…遺跡の封印と同じ……そう考えれば辻褄は合わない訳じゃない。
でも……封印魔具なんて個人で持てるような代物じゃ……)
念の為に他の罠も考えて、魔力の流れも見て見るが、おかしな流れは見えない。
魔法が使えるようになって数年は経ったが、まだまだ使いこなす…には至っていないので、魔力ならロザリーの方が敏感に感知出来るかもと、エリルシアは自分の後ろにいるロザリーに視線を向けた。
だが彼女はきょとんとエリルシアを見上げるだけだったので、多分おかしな何かはないのだろう。
そっと一歩を踏み出す。
紋章の浮かぶ壁があった一線を超えると、途端に室内が明るくなった。
入室を察知して証明魔具が起動したと考えるべきだろう。
(感知タイプの証明魔具って……一体どれほど高価な魔具が使われてるの…?
と言うか…紋章から考えても、ネデルミスから持ち込まれたと考えるのが自然よね…?
御祖母様って……何者なの…?
いえ、ネデルミスの公爵令嬢だった事は知ってるけど……でもこんな魔具…下手したら家宝か何かなのではないの?)
だがその場で考えても、やはり手掛りがある訳ではない。
攻撃される気配はないので、そのまま封印の向こう側に入り込む。
置かれている机や椅子、書架等は手前の…封印手前の部屋と同じ物のようだ。
だが並んでいる物が違う。
背表紙に何も書かれていない本…そして魔具…。
この世界の魔具は基本的には遺跡からの発掘品だ。
遥か昔にあったと言われる魔法大戦の影響か、魔法の継承が途絶え、魔具についても断絶状態。
経験的に使う事や、一部の物については魔紋の複写等が可能になったとは言え、原理は不明のまま。
そんな状態なので、当然新作魔具を現在の人間の手で作り出す事なんて不可能だ。
だから、この部屋に置かれた魔具類はほぼ発掘品と言う事になる。
もしくは王家を始めとする高位貴族家に伝わる秘蔵品か……。
エリルシアはぐるりと室内を見回す。
ありがたい事に、この世界の魔法体系は不明でも、エリルシアには前世以前の記憶があり、他の世界の考え方や基本を持ち込む事は可能だ。
だから並ぶ魔具達についても、その使用目的とかは想像がつく。
(これはレンズ的な物かしら……形状的には投影装置っぽいけど…。
こっちは何かしら……昔、別の世界の冒険者ギルドで見たような鑑定魔具っぽいわね…小さいし簡易版ってところかしら)
だが…と、エリルシアはまず本を手に取った。
背表紙が無地になっているので、本と言うよりはノート…日記や記録帳の類だろうか。
まるで読めと言わんばかりに、出入り口の方へ向けておかれていた物だ。
劣化はそこまで進んでおらず、普通に手に取る事が可能なのは助かった。
パラリと頁を捲る。
(……うん、懐かしい……御祖母様の文字だわ)
捲った最初の頁には、エリルシアの祖母ティリエラの文字でこう書かれていた。
『この冊子を開いた者へ。
貴方にもし蔓の血が受け継がれていないのなら、どうかこの部屋の事は忘れて欲しい。
けれど、もし蔓の血を受け継ぐ者…叶うならティルシーかエリルシアなら、どうかこの部屋の全てを受け入れてくれる事を願います』
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