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「ポーラ!」
エリルシアが領邸を姉夫婦に引き渡し、退去してからそれなりに経つ。
それから足繁く……ではないが時折訊ねてきていたので、懐かしいと言う程ではないが、やはり存命の家族より、幼い頃より苦楽を共にした家族らしい家族であるポーラの元気そうな姿を見れば嬉しくなる。
「まぁまぁ、今日はゆっくり出来そうですか?」
用件の前にそんな事を訊ねられ、エリルシアは苦笑を口元に刻む。
ちなみにエリルシアの後ろで大人しくしているロザリーの姿は、やはりと言うか…見えていないようだ。
「それより入邸の許可を貰ってきてもらえる?」
未だ大扉を挟んだまま、エリルシアは外側からポーラに問いかける。
既に邸の主は姉なのでティルシーの許可が必要だ。ティルシーが不在なら代理の婿パッキーの許可でも良いだろうが、外に馬車もあったので在邸しているだろう。
「まぁ、私とした事が……申し訳ございません、ささ、どうぞ」
大急ぎで邸内に引き入れようとするポーラに、エリルシアは苦笑を深める。
「ポーラ、先に侯爵小夫人の許可を貰ってきて、ね?」
「何をおっしゃいますか。
お嬢様の御帰邸にティルシー様の許可など必要ございません」
一緒に暮らしていた期間が長いせいか、ポーラとゾラック夫妻は、エリルシアの方に重きを置く。
爵位はまだ父親にあり当主ではないとはいえ、領邸は既にティルシーの管轄下だと言うのに困ったものである。
「ダメよ。
こういう事を蔑ろにしては御祖父様、御祖母様に叱られてしまうわ」
ポーラがむぅと唸って萎れた様に目を伏せた。
そこへ弾むような、底抜けに明るい声が飛び込んでくる。
「エリィ!!」
2階からダダっと駆け下りてきたのは、話に出てきた姉ティルシーだ。
既に成人し結婚までしていると言うのに、こうも落ち着きがないままなのはどうなのだろう……まぁ可愛らしいのは確かである。
ティルシーは階段を駆け下りてきた勢いのまま、エリルシアに抱き着いた。
「あぁ、わたしの天使!
もっとよく顔を見せて頂戴!!
んんん~~~~相変わらず、なんて可愛らしいのかしら!!」
これでもかと言わんばかりに頬擦りを繰り返すティルシーに、エリルシアの方が白旗を上げる。
姉妹として愛情を向けてくれるのは嬉しいが、エリルシアの事を可愛い等と言う寝ぼけた人物はティルシーくらいだ。
思わず『可愛いと言うのはこういう顔を言うのだ』と鏡を掲げたくなるのも毎回の事。
「ウィスティリス小夫人におかれましては、御機嫌麗しく」
だが挨拶もそこで遮られる。
「もう!!
そんな他人行儀な挨拶はやめて頂戴って、何度も言ってるでしょ!!??」
「ぃぇ、ですが……これは当然の事で…」
「エリィはずっとわたしの妹なの!
それは変わらないんだから……ねぇ…お姉様って…前みたいに呼んでよ…」
「………」
困り切っているエリルシアに頓着する事なくティルシーは続ける。
「それに、いい加減帰って来てってば!
エリィが遠慮するなんておかしな事なのよ?
この領地を本当に支えたのはエリィなんだから、領民達もエリィの事をずっと頼りにしてるわ。彼等の為にも戻って来てよ……。
それにパッキーも頼りになんないし。ね?
私もパッキーもお飾りくらいにしか役に立たないのよ…だから戻って来て!」
姉ティルシーとその夫パッキーが結婚し、この領邸に来てからもう1年以上経つのだが、領地経営は未だに覚束ない状態で、微に入り細に入り、事ある毎にエリルシアが邸外から支えている。
だからこそ戻って欲しいと言う側面もあるのだろうが、手助けは邸内に居らずとも可能だ。
何よりエリルシアは最早貴族令嬢として、役に立てない傷物と言う事実は変わらない。
そんなエリルシアが邸内に留まったとして何になるのだろう?
それどころか、最悪ウィスティリス侯爵家の名を貶める事になり兼ねない。
まぁ、どれほど頼み込んでも、今なお貴族籍から抜かれていない現状、エリルシアは紛う事なき貴族令嬢のままなのだが……。
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