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訊ねてみると、王家からは警備の為の兵団を、公爵家からは無利子で融資をして貰えると聞いて、エリルシアは密かにガッツポーズを決めた。
正直言うと、治安も悪くなる一方だったので、兵団派遣は本当にありがたい。
そして返済が前提ではあるが、無利子、しかも無期限での融資と聞いて、歓喜の舞を踊りそうになったのは内緒だ。
顔も知らない王子と会うだけで、王家と公爵家から支援を得られるなら安いモノである。
時間になったらしく、侍従の先導で謁見の間に向かう事になった。
その途中、これまた無駄に豪華な廊下を歩きながら、マーセルが色々と教えてくれる。
「王陛下は、そうだな……まぁ気さくな方だから、そんなに不安に思う必要はないと思う。
思った事を言ったり、疑問を訊ねたりしたからと言って、不敬だなんだと騒ぐ事はなさらない方だよ。
まぁ、踏ん反り返った好々爺とでも思っとけばいい」
「マーセル、流石にそれは不敬だろう…」
マーセルが軽口を交えるのは、エリルシアが緊張していると思っての事だろう。
つくづく良い御仁である。
ただまぁ、残念ながらエリルシアは緊張等していない。
何しろその頭の中は、先ほど聞いた兵団派遣と融資の事でいっぱいだったからだ。
(まずは領都でしょうね……あぁ、でも村の方も最近盗賊が出るらしいから……でもやっぱり人数に限りがある訳だし…。
それにそう、派遣された兵団の皆さんの食事なんかも…む……となると融資金の一部は兵団の維持に回すしかないかしら……ぐぬぬ)
そして、先導する侍従が扉の前で止まりノックした。
エリルシアは思わず周囲を見回す。
同じような扉が並ぶ一角で、見た事もない場所ではあるが、少なくとも謁見の間があるような場所ではない気がする。
「あれ、此処で良いの?」
エリルシアの疑問を、マーセルが代弁してくれた。
「はい。
此方へご案内する様にと申しつかっております」
大きな扉は軋む事なく開き、中には数名の人影が見えた。
ティルナスとマーセルに促され、エリルシアも足を踏み入れれば、背後で静かに扉が閉められた。
「おお、其方が侯爵の娘御か!
良く参った!」
ワハハと豪快な笑い声を発しているのは、中央にデンと座った小柄な老人。
白髪を後ろで一つに結えており、空色の瞳は穏やかに細められている。
マーセルの言った通り『好々爺』という言葉を裏切らない印象だ。
(まぁ穏やかって言っても、縁側で猫を抱っこしてる場面より、ラジオ体操してる姿の方が似合いそうだけど)
エリルシアは自分の心の言葉に、引っかかっる。
(『えんがわ』…って、何かしら…?
それに『らじおたいそう』?)
ぼんやりしてると思われたのか、ティルナスが『どうした?』と言いたげにつついてきた。
ハッと我に返り、何事もなかったかのようにカーテシーをする。
「名は何と申す?」
「偉大なる王陛下に初めて御挨拶申し上げます。
ウィスティリス侯爵家当主ティルナスが第2女、エリルシアでございます」
「エリルシア嬢か。
そうかそうか、あぁ、皆も楽にしてくれ。
まずはウィスティリス侯爵とエリルシア嬢には、礼を言う…よくぞ来てくれた。
この後に儂の孫、ラフィラスと会って貰おうと思うておるが、それで良いかの?」
『良いかの』も何も、いくら求心力が低下したと言っても、王の言葉に肯定以外を返せる臣下は多くない。公爵家くらいのものだろう。
そしてウィスティリスは侯爵家でしかない。
ここまでの話でどうやら王命等ではなさそうだと踏んでいるのだが、ちらと室内を確認すれば、正面に王…ホメロトス・ロズリンド。その隣に座って難しい顔をしてる男性はラカール王太子だろう。
その更に横に並ぶ女性はフィミリー王太子妃だと思われる。
後ろに立っている鎧の男性は、近衛騎士団の団員…いや、団長かもしれない。
王妃であるラナッタは既に故人である為、当然居ない。
少し離れた椅子に座っている穏やかそうでありながら、一筋縄ではいかない雰囲気を醸す男性は筆頭公爵家当主、ジョストル・ロージント。
その隣に座っているのは同じく公爵家のリモン・ギアルギナ。マーセルの義父でありギアルギナ家当主だ。
あまりに時間がなく、付け焼刃ではあったが、流石に関わりそうな公爵家の当主の顔は記憶してきている。
………きているが、これは拒否が通じる面子なのだろうか…もしかしてピンチではないだろうか!?
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