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エリルシアは領邸の門前で足を止め、ゆっくりと見上げた。
久しぶり……と言っても、前回訪れたのは1ヶ月と少し前位になるだろうか…。
レヴァンが来訪していると聞き、気になっていた事があったのでやってきたのだが、その時はなんだかんだで会う事は出来なかった。
有体に言えばその時だけではなく、今に至るまでずっと……ではあるのだが…。
エリルシアには気になっている事があった。
レヴァン…と言うよりはロージント公爵家からの依頼で、サキュンツァと言う魔物を生きたまま捕獲し買い上げて貰っていたのだが、元々あまり強い種ではない為、暫くは納品前に死亡する事があった。
最近ではその辺のノウハウも確立していて、納品までしっかり生存させる事も容易になっている。その為、確認する事も出来ずにいたのだが……。
気になっていた事と言うのは、魔物が持つ瘴気の事。
魔石を持つ持たないに関係なく、魔物は死後瘴気を放出する。
放出に至るまでの時間は種や個体によってまちまちだ。
そして放出期間は…と言うと、勿論例外はあるものの、大体は身体の大きさに比例する感じで、小さいモノ程放出する期間は短く、大きいモノ程長い。
サキュンツァの場合、死後少しすると瘴気の放出が始まってしまうので、先に解体しておく事は出来ない。
魔石も持たない上に然程大きくもないので、瘴気の放出期間もそんなに長くないのだが、体内水分が多いせいか劣化が早く、腐りやすいのだ。
それ故、瘴気が抜け切ってから処理をする…では水分を取り出す事が出来ず、廃棄するしかなかった。
あの時は確か、死亡してしまったサキュンツァの処理が直ぐに出来ない状況だったと言っていた。
生きたまま捕獲したサキュンツァと同じ倉庫に入れておく事もどうかと、取引の窓口になっていた冒険者ギルドの面々は仕方なく、同じく粉砕処理待ちの魔石が保管してあった、所謂廃棄処分待ちの倉庫に放り込んだのだそうだ。
だが、いざ処分という段になって、放り込んであったサキュンツァの死体から瘴気が抜けきっているように感じたと言う。
それも死体が腐り始める前に…だ。
もしそれが本当なら、水確保に大いに貢献しただろうが、当時の職員達は気にはなったものの、本格的に腐り始めては大変だと、処分の方を優先したのだそうだ。
そうして有耶無耶の内に、その事実は忘れ去られていたのだが、偶々その話がエリルシアの耳に届き、改めて調査を開始した。
調査開始直後はその事象に至る条件……腐り始める前に、何故瘴気が消え失せていたのか…の『何故』にまで至れなかった。
誰も近くに粉砕処理待ちの魔石を置いていた事をエリルシアに話さなかったからだ。
だが話しているうちに古参の職員が『そう言えば…』と思い出してくれたのだ。
エリルシアも話の信憑性を確認したかったのだが、自宅にはリコもいるので瘴気を発するような魔物の死体を持ち込む事が出来ず、自分が居なくなった領邸で実験するのも気が引けて、確認する事も出来ずにいた。
だが、もしそれが本当の事なら、魔物の解体を早くする事が出来るし、もしかしたら粉砕処分するしかなかった空魔石の再利用も可能になるかもしれない。
その為、しっかりと設備の整った公爵家で検証して貰えないだろうかと提案に行ったのだ。
そんな事を思い出しながら門を開け、邸の大扉に近付く。
金属製のノッカーに手をかけて、控えめに打ち付けて待っていると、中から声が聞こえた。
「(はい)」
「エリルシアです」
名乗るや否や、大扉が軋んだ音を立てて開かれる。
「お嬢様!!」
中から出てきたのは、苦楽を共にした老メイドのポーラだ。
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