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一歩前に出た女性の方は、栗色の長い髪を後ろで一つに纏めたなかなかの美人。
貴族的な、精巧さを極めた人形の如き美しさではなく、あくまで平民の中では…であるが、冒険者等せずとも引く手数多だろうと思植える程度には美人だ。
小振りのナイフを装備しているので、斥候か遠隔あたりだろうかと目星を付ける。
もう一人の女性はと言うと、こちらは腰にぶら下げた幾つもの瓶から、薬師か何かだろうと当たりを付けた。
可愛らしい感じの女性だが、斥候風女性と違って、その表情に浮かんでいるのは不安とか、そんな感情。
ますますわからない。
そんな緊張や不安を伴うような報告なら、尚更ギルドの方にするべきだ。
ギルドに報告さえしてしまえば、後は領邸への報告や諸々の手配を勝手にやってくれるのに、態々エリルシアを選択する意味がわからない。
偶々見かけたから…精々そんな理由だろうかと考えていた所、先頭を歩いていた斥候風女性が足を止めた。
声を掛けられたのも町外れで、人の通りはかなり減っていた場所だったが、ここは更に人の気配がない。
いや、人の気配どころか建造物さえない。
大きな木が数本見えるだけの原っぱだ。
そこに街道から逸れて入り込んだのだが、こんな場所で一体何の報告があると言うのだろう……?
エリルシアは更に眉根を顰めた。
沈黙が続く。
エリルシアは呼ばれた方で、話の内容等想像もつかないのだから、彼女達の方から話し出して欲しいのだが……何より、いい加減時間が勿体ない。
さっさと領邸で調べ物をしたいのだ。
しかも目標が多岐に渡っていて時間が掛かる事なんて、容易に想像出来る。だから少しでも早くして欲しいのだが……。
「それで……私に何の用でしょう?」
エリルシアが淡々と問えば、斥候だけでなく薬師の女性もビクリと震えて身を固くした。
(はい?
……………ちょっと、待ってよ…。
まるで私が彼女達を虐めてるみたいになってない?
こっちはさっぱり見当もつかないのに……)
エリルシアの困惑は尤もだ。
斥候女性の方が胸の前で両手を組み合わせ、小さく深呼吸をする。
ようやく話が進みそうかと、エリルシアは黙って耳を傾けた。
「……あの…お、お願い…」
「お願い…?」
「はい! お願いします!!」
お願いと言われても、目的語が入っていないので何の事やら…だ。
だが斥候の女性は大真面目に頭まで下げる。
「お願いします!
ファング……ファングさんを解放してあげてください!!」
―――――はい?
思考が回り始めるまで、たっぷりと空白時間を必要とした。
ファングと言うと、あの冒険者のファングだろうか…?
だが彼を解放?
唐突にそんな事を言われても、エリルシアにはさっぱりわからない。
兎に角、続く言葉を聞かないと何もわからなさそうだ…と促すより先に、斥候が捲し立てる。
「お、お嬢様は貴、族様で、ファングとは身分が違いますよね!?
それに、いつかお嫁にいくんでしょう!?」
内心で『いや、本人平民になって貴族社会とは縁切る気満々なのだけど…それに嫁の貰い手なんて……』と、一瞬脳裏を過りそうになった面影をエリルシアは必死に振り払った。
そうする間にも斥候女性は、徐々に感情が高じて来たのか、半分叫ぶように声を荒げる。
「だったら……だったらもういいじゃないですか!!
どうしてファングまで……。
お嬢様なら相手に困る事なんてないでしょう!?
そんなに綺麗で美人で…頭も良くって……身分だって…何よりお金に困る事なんてないでしょう!!??
お願いですから、ファングの事は手放してあげてくださいっ!!」
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