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家を飛び出したエリルシアは只管走った。
後ろを追ってくるロザリーの事も頭にはなく、真っすぐに領邸を目指す。
どうしても領邸に行かないといけない時や、冒険者ギルド他に用がある時は、大抵人通りの少ない道を選ぶのだが、今日は町中を突っ切る形になった。
何故人通りの少ない道なのかと言うと、そこかしこから声が掛かるからだ。
領民達だって、誰が一番自分達の為に苦労してくれていたか知っている。
この領が異変に襲われた最初の頃は、前領主夫妻が前に立って頑張ってくれていた。
だが、その前領主夫妻亡き後、一番苦しい時期を乗り越えられたのは幼いエリルシアが頑張ってくれたからだと知ってる為、エリルシアの姿を見かけると領民達はこぞって声を掛ける。
―――今日は天気が良いですな
―――この前のお芋、美味しかったんですよ
―――お嬢様、お腹空いてませんか?
そんな他愛ない声掛けもあれば。
―――昨日のサキュンツア捕獲は大成功だったぜ
―――先日の雨のおかげで畑の乾燥はまだ大丈夫そうです
―――この前森で魔物を見たんだけどさ…
なんて言う、ちょっと業務連絡っぽいものまで……。
既に領邸は姉ティルシー夫妻に明け渡したにもかかわらず、エリルシアの姿を見れば我先にと話しかけてくれるのだ。
そんな、何事もない平素ならばありがたい声掛けも、今は少々困りもの。
エリルシアは一番の最短ルートを選んだ事を後悔していたが、時既に遅しである。
もう少しで町中を抜けると、ホッとしたその時だった。
「あの……ウィスティリスのお嬢様ですよね…?」
聞き覚えのない声に呼び止められた。
足を止めて振り返れば、そこには冒険者風の女性が二人立っている。
装備は誰かのお下がりなのか年季が入って見えるが、見るからに新米と言った感じで、まだまだ馴染んでいるようには見えない。
彼女達はおずおずと、だが意を決した様にエリルシアに声を掛けてきたのだ。
もしかすると重要な案件かもしれないと思えば、足を止めて向き合う…それ一択である。
「えっと……冒険者…かしら?」
寡聞にして存じ上げず申し訳ないが、エリルシアがどんなに記憶力が良くても、領民全員を把握するなんて不可能だ。
茶会前に出席令嬢全員覚えておく……とは訳が違う。
分母の数が違うのだから仕方ない。
それでも……と思う。
冒険者なら大抵は把握していた。
過去形なのは、王都から戻ってからは、そんなに足繁く通っていた訳ではないからだ。
自身の負傷に加え、その頃にはある程度新人冒険者も育っていて、新たな事業として持ち込んだサキュンツア捕獲も、エリルシアが先頭に立つ必要はなく、後方で指揮するだけで十分な状態になっていた。
だから恐らく彼女達はその後冒険者になった新人だろうと想定する。
しかし新米なら尚更、何か報告があれば冒険者ギルドにするのではないだろうか…?
勿論、冒険者として新米でも、領民として長く暮らしていたならエリルシアに対し、親しみを持ってくれている可能性はある。
しかし、彼女達から感じるのはそう言った感情ではない。
緊張とか、そっち系…。
「ぁ、ぁの!……その……ちょっとこっちに来て貰ってもいいですか?」
新米冒険者風の女性二人の内一人が一歩前に進み出て、ようやく絞り出した言葉に、エリルシアの片眉が怪訝に跳ね上がった。
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