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リコに買い物を頼んで、家内にはエリルシアと謎の少女? それとも少年? が残された。
相変わらず言葉は通じない。
幼子は飽きる事無く、毎日エリルシアに何らかの働きかけを行っている。
拒否権はなく、気付けば何かを体内に押し込められ、何かが引き摺りだされる感覚に陥っていた。
ただ…恐らくソレのせいであろう変化は……確かにあった。
リコに言われて気付いたが、傷が薄くなっているらしい。
合わせ鏡にすれば自分でも確認出来るのだろうが、生憎と高価な鏡は現在の家にはない。
その為、未だに自分の目で確認出来てはいないのだが、リコがそう言うならそうなのだろう。
事実、右手の動きは少しマシになっているように思えた。
それだけでなく魔力が引っかかる感じも軽減している。
他にも…幼子自体にも細やかではあるが、変化を見つける事が出来た。
薄緑の姿が少しはっきりしたように感じる。
境界も曖昧で、ぼんやりとしか認識出来なかった衣服や装飾品も幾分見易くなり、藤の花の様な意匠が見出せるのだ。
そして幼子の額、眉間の少し上あたりに涙型を逆さまにしたような形の、硬質な何かが鎮座しているのだが、それにも同じような意匠が刻み込まれている。
エリルシアは、自分の手を握って目を閉じている幼子を見つめた。
思わず遠い……いや、まだ3年程しか経っていないが、自分の手を握った手の事を思い出していた。
もっと幼い頃に祖母が手を引いてくれた事があった。
けれど、それもほんの一時の事で、気付けばエリルシアはそんな子供らしい思い出も殆どない生活に慣れてしまう。
だからだろうか…時折あの時の手を思い出す。
無意識に口角が上がり、自分が笑みを浮かべている事に気付いて、エリルシアは慌てて表情を引き締めた。
再び幼子に意識を向ける。
彼だか彼女だかわからない子供は、どうやらエリルシア以外には見えていないらしい。
冒険者であるファングやソッドでも、気配すら感じていない。
(不思議な存在よね…。
見えない人型……清浄にも感じて不快感はないけれど、異質な感じは拭えなくて緊張を強いられる……一体何者なのかしら…)
散漫に記憶の引き出しを開けてひっくり返す。
そしてふと浮かんだ考えに、エリルシアは自嘲した。
(あの場所にあったのは…湖、木々、草花……そして中央が抜け落ちて、浄化されたかのように感じる瘴気の残滓……。
……もしかして抜け落ちた魔素の核…とか?
いやいや、魔素が人型を取るなんて、冗談が過ぎると言うものよ……でも…そんな…ありえ、な…い………)
自分でも突飛もない考えだとは思うが、頭から離れない。
(清浄な魔素の塊……それが人型を取って……その上、藤の花?
ウィスティリスの紋章……まさか、ね)
作業なのか儀式なのか、意図の読めない行動は、本日も無事終了したらしい。
幼子がエリルシアの手を解放し、二パッと笑う。
その時、何かが脳裏でカチリと嵌った気がして、エリルシアは勢いよく立ち上がった。
そして本棚へ足早に向かう。
焦っているからか、直ぐに見つからない。
貸した後、片付けるのはリコだから、もしかして違う場所に戻しているかもしれないと、付近の棚も隈なく探す。
そしてやっと探し物に行き当たった。
―――『蔓の姫と5つの宝玉』
ストーリーもある様な、無い様な……童話だったらそんなモノかと思っていたが、そうじゃなかったらどうだろう…?
エリルシアは頁を捲る。
そして頁を捲る手が止まった。
逆さ花……逆さま…つまり上から下へ落ちる花……藤の花。
逆さ花のロザリー……。
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