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なかなか起きない父親を揺さぶり起こして馬車から降りれば、一目で上質と分かるお仕着せに身を包んだ女性達が出迎えてくれた。
聞けば王宮に勤める侍女さん達らしい。
此処ロズリンド王国の一般貴族家でメイドと呼称される方達が、王宮では侍女と呼称されるそうだ。
ちなみに男性使用人の場合、一般貴族家では従者と呼称するが、王宮では侍従と言うらしい。
また一つ賢くなったと、エリルシアは頷いた。
案内された先は客室の一つだろうか…。
随分と広く、また豪奢な部屋で、エリルシアは思わずじっくりと眺めまわしてしまう。
(ひゃぁぁぁ、何という無駄遣い!)
飾られていた壷に、ささっと近づく。
(うっわ……これって遺跡で見つけられた壷じゃない!?
……うん、修復の跡があるし、この貝の装飾……多分間違いないわ……あぁ、これを売るだけで領の水が数ヶ月分は買える!)
次に目についたのはカーテン。
その留め金だ。
小振りながらも深紅の色味が美しい石が嵌めこまれている。
(これは!
ハックマウト王国の希少な宝石では!?
ぬあ!! 見れば絨毯も!!)
何とか口には出さず、心の内に留めていたのに、ついつい小さく零れ始めた。
「(これ、売ったら幾らになるかしら…宝石はさっぱりだわ。
魔石ならわかるんだけど……あぁ。でも! 絶対お高いはずよ!)」
よくよく耳を澄ませれば、エリルシアが何を呟いているのかわかっただろうが、ティルナスは眠気に苛まれていて聞いていなかった。
………幸いである。
未だうとうととしているティルナスを横目に、エリルシアが品定めに没頭していると、部屋の扉がノックされた。
ハッと我に返り、エリルシアは慌ててティルナスの横に腰を下ろした。
ティルナスも目を覚ましたらしく、返事をすると、部屋の扉が開き、男性が一人入ってくる。
ティルナスが慌てて立ち上がったので、エリルシアも隣に立った。
「おや? また寝ていたな?」
「ぁ、ああぁぁ、す、すす、すまない!!」
「あぁ、いいって、いいって。
最近仕事は忙しいし、義父上がお前に無茶言ったしな…。
それで…其方が?」
男性の視線がエリルシアに向けられた。
それに合わせてカーテシーをする。
「……あぁ、娘…次女だけどな…。
エリルシア、此方は私の同僚でマーセル。マーセル・ギアルギナ殿だ。名前からわかる通りギアルギナ公爵家の一員でいらっしゃる方だよ」
「おいおい、やめてくれ。
公爵家の一員と言ったって、婿養子だしな。
堅苦しいのは御免だよ」
「初めまして。
ウィスティリス家が次女、エリルシアと申します」
マーセルが床に膝をつき、エリルシアに目線を合わせた。
「素晴らしい御令嬢だな。
初めまして。
御父君の友人のマーセルだ。
仕事でも良く世話になっている。これからは私とも仲良くしてくれると嬉しいよ」
微笑みと共にそう言うと、マーセルは立ち上がった。
そして顔を顰める。
「まったく……こんな小さな令嬢とは…。
あんまりだって義父上に言ってくるよ」
「へ? あ、でももう王が…」
「それはそうだが、だからってこんな小さな少女を…」
なるほど…わかり易く父ティルナスの友人だ。
為人の良さが滲み出ている。
それにしても公爵家の人だと言うのは好都合。
見合いに臨むにあたって条件は出したが、それが通っているのかどうか確認したい。
流石に王に直接訊ねるのは、不敬を問われかねないだろう。
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