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ビードロ玉
ラムネ瓶に使用出来る程、歪みのないガラス玉をA玉と呼ぶそうです。
なのでラムネ瓶の中となるとB玉ではないので、ビードロ玉と表記しました。
ちなみに現代的なガラスビー玉は大阪で作られ始めたのだそうです。
歯を食いしばって、踏ん張って……ぐらぐらと世界が揺れる感覚を耐えきった。
いや………。
……耐えきったと思っていたのだが……………。
いつの間にか自分を取り巻く世界は霧に包まれていた。
エリルシアはふとその霧に手を伸ばす。
霧だけでなく空気そのものが酷く重い。
伸ばした手にねっとりと絡み付いてきたそれは、ただの霧ではなさそうだ。
そして眼前には、何時の間にやら白に近い薄緑の塊。
霧を掻き分ける様にじっと目を凝らして見つめれば、その薄緑は……笑った。
笑みの形に細められた大きな瞳は、ラムネ瓶の中のビードロ玉のよう…。
青とも緑ともつかない曖昧な…だけど透き通っていて……何故そう感じるのか言葉に出来そうにないが、何処か懐かしく感じた。
動く度にサラリと揺れる長い髪は毛先の方だけ波打っている。
ズルズルとした……宛ら古代ローマかと言いたくなる様な装いのソレと目が合う。
地面に膝をついたエリルシアと目線が重なる事から、かなり小柄と言って良いだろう。
「&$◇…×%@・*」
声らしき音は耳ではなく、直接脳内に響いてくるが、その意味は分からない。
意味以前に、音そのものに言語のような規則性が見出せないでいる。
エリルシアはと言うと、返事も出来ないでいた。
それと言うのも、その薄緑の発する気配の様なモノが、敵意ではないと言う事はわかるが、好意とも違うように感じられて困惑していたから…。
警戒を緩めても解く事は出来ない…そんな感じ。
現在の視覚情報を信じるなら、眼前の薄緑は薄氷を思わせる、儚く、曖昧な美しさを纏った幼子の姿……それがエリルシアに手を伸ばしてきた。
一瞬警戒を強めて身を仰け反らせるけれど、仰け反らせたと思い込んでいただけかもしれない。
何故なら薄緑の手は、いとも簡単にエリルシアの頬に触れたからだ。
途端に魔力密度が上がった気がする。
……………
…………
………………………処で…………様!! エリー様!!!」
遠くリコの声が聞こえた気がした。
その声に我に返ると、エリルシアはぎこちなく周囲へ視線を走らせる。
身体を動かそうとしたのだが、かなり緊張状態にあったようで、節々が軋むような感覚に見舞われた。その為動かすのは視線だけに留めたのだが、どうやら現実と思って良さそうだ。
湖は凪いでいるが、空は夕暮れの色に着替えていて、間もなく訪れる夜闇を出迎える準備は万端と言った所か……。
「何処ですか!!?? お願いです、返事を!! エリー様ああああ!!!」
悲痛な叫びが近づいてくる。
木の葉を押し退けるガサガサと言う音の後、気配が直ぐ近くで立ち止まった。
「……エリー様!!!」
小柄とは言え、エリルシアよりも若干体格の良いリコが、飛び込むような勢いで抱き着いてきた。
地面に膝をついていたエリルシアは、その勢いに押されて地面にへたり込む。
「心配したんですよ!! 何かあったんじゃないかって……うぅぅ、ヒック…」
「……ぇっと……ごめん、なさい…」
泣きじゃくるリコに抱き着かれた体勢のまま、その頭を撫でつつ落ち着くのを待つ。
リコにバレたら面倒だから言わないが、エリルシアも身体が強張っていたので、待ち時間の発生は渡りに船と言う奴である。
「落ち着いたかしら?」
「……はい…すびばせ”…ん……」
「いえ、私の方こそ心配かけてごめんなさい。
それじゃ戻りましょうか」
リコが痛みを堪える様に顔をクシャリと歪めた。
あえてそれには言及せず、先に立って歩き始める。
自分の後ろ……ついてくる『2つ』の気配に、エリルシアは眉間に皺を刻み、そっと溜息を落とした。
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