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「エリー様ぁ、ただいま戻りましたぁ~」
元気に入ってきたのはリコ。
元孤児で、今はエリルシアに仕えている。
彼女は3年程前、賊に盾にされ、エリルシアに庇われた子供だ。
捨て子だったので実を言うと年齢は不祥だが、一応拾われた日が誕生日になっている。
それでもエリルシアより4歳程年上になるのだが、如何せん孤児院育ちなせいか、体格はエリルシアより少し大きい程度だ。
体格も然りながら、そばかすも気にしている女の子である。
彼女は自分を庇ってくれた事に恩義を感じて、ウィスティリス家…ぼろっちぃ官舎館だが…その扉を叩きに行ったらしい。
多分恩義と言うより罪悪感の方だろうと考えるが、本人が恩義だと言い張るので、深く追及はしていない。
しかしながら、その時…官舎館は無人で、リコは途方にくれたと言う。
あの日、急ぎ王宮を後にした後ティルナスとエリミアは、官舎館ではエリルシアがゆっくり出来ないだろうと、決して高級ではないが宿を借りてくれた。
流石に領地まで強行軍する事は不可能だからと言う苦肉の策ではあったが、それでも誰かが訊ねてきたりしない、静かな環境を用意してくれたのだ。
宿代なんて無駄な出費をさせてしまったと、エリルシアは萎れたが、何故か両親揃って同じ宿に泊まる事になった。
仕事の忙しさは目の当たりにしてきたし、てっきり両親は直ぐ官舎館へ戻ると思っていた。
なのに、戻るどころか姉ティルシーも、更には使用人達まで宿にやって来た。
そのせいで無人の時に行き当たったのだろうと思う。
今にして思えば両親達にも思う所があったのかもしれない。
それから暫くは、エリルシアに全員が付きっ切り…家族や身内同然の使用人達との、これまで以上の触れ合いなんて初めての経験だった。
何しろ両親の間に挟まって川の字で寝るなんて、これまでの記憶をどんなにひっくり返しても見当たらなかった事だ。
そんな…戸惑いも大きかったが嬉しく、思い出に残る時間を過ごす事が出来た。
そして現在エリルシアは、領地の片隅にある小さな家で暮らしている。
貴族籍も抜いてくれるよう頼んだのだが、それは家族、そして身内と言って問題ない使用人達によって、満場一致の却下を喰らっていた。
まぁいずれ抜いてくれれば問題はない。
家の足枷に自分がなってしまうだなんて、真っ平御免である。
そんなエリルシアの前に小振りの…だけどちょっぴり重そうな麻袋が、リコによってドンと置かれる。
中身はお金だろう。
エリルシアの現在の住んでいる家屋は小さいが、庭はそこそこ広い。その庭に畑を作り、乾燥に強い薬草等を育てている。
それを売ったり、長年関わってきた魔具の修理をする等して生計を立てているのだ。
近くに領の水源とも言うべき湖があるので、そこまでキリキリと考えなくても良いのだが、そこは長年の習慣と言うか、癖みたいなものである。
「これ、薬屋のお爺ちゃんから。
高値で売れたんだって。次の納品待ってるって言ってましたよぉ。
魔具の方は冒険者ギルドに配達で良かったんですよね?」
「えぇ、ありがとう」
もう11歳だ。
原因不明の水不足で困窮したウィスティリス家だったが、少しずつ持ち直してきいるので、本来ならエリルシアも王都の学院に通えるかもしれなかった。
だが、傷跡は残ったままだし、右腕はやはりあまり滑らかには動いてくれない。
それも成長が止まって、魔力の引っ掛かりがなくなればどうにかなると思っているが、それでもまだ数年は先だろう。
そんな状態で学院に行ったとしても、遠巻きにされるか……遠巻き程度ならまだしも虐められる事になるかもしれない。
勿論中身は年齢相応ではなくなっているので、少しくらいの虐めで折れるとも思えないが、だからと言って虐められる事を喜ぶような特殊性癖もない。
ならば…と、学院は行かないと決めている。
そしてずいっと差し出される手紙……。
差出人の名に、エリルシアはキュッと下唇を噛み締めた。
忘れて欲しい反面、忘れずにいてくれる事が嬉しいと思ってしまう。
そんな自分を、とても持て余してしまうのだけど……。
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