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ぼんやりとした視界に映り込んだのは、見知っているように感じる天井…。
まだ焦点があっていないのか、輪郭が滲んだように見えていたが、徐々にはっきりとしてきた。
間違いなく見知った天井だ。
「………ッ!」
身体を動かそうとした途端、鋭い痛みが突き抜けた。
何があった?
自分に問いかけるが、思考は乾いた砂のように零れ落ちて、形を成してくれない。
(為せば成る、為さねば成らぬ何事も……よ!
頑張れ私!!)
本来は強く決意して行動すれば、どんな事も達成出来るとか何とか……そんな意味だったように思うが、エリルシア的には『ま、やってる間に何とかなるんじゃね?』みたいな感じの軽い意味合いで良く使う。
言葉としては誤用かもしれないが、自分の心の中で使う分には問題はない。
それはさておき、思い出そうとしているうちに、何となく記憶がはっきりしてきた気がする。
(ぁぁ……子供、庇ったんだっけ……。
しくじってしまったわね…。
まぁ、生きてるんだから問題はないとして良いでしょう)
そう考えるが、痛みのせいで身じろぐ事もままならない。
治癒とか回復魔法を試してみようかなんて考えも一瞬浮かぶが、まだ魔力が引っ掛かって上手く流れてくれない事が多いし、何より今は、痛くて意識の集中も難しい。
エリルシアはふぅと息を吐いて脱力し、ベッドに沈むに任せた。
(一番痛むのは右肩…かしら。
頭に当たらなかったのは良かったけれど、これでは当分何をするにも支障が出そうね…)
恐らく剣を握る事は難しいだろう。
となると冒険者としての稼ぎに影響してしまいそうだ。
身体が成長すれば魔力の引っ掛かりもなくなって、治癒回復の魔法も問題なく扱えるようになると思っているが、それもどうなるかわからない。
漠然とした不安に、まだ動かせる左腕で目元を覆った。
(でも、別の意味では良かったのかも……。
私はこれで立派な『傷物』だもの。
王子殿下も公子様も……もう私とは無関係…)
そう考えた途端、理由のわからない涙が溢れた。
止まらない涙に……けれど、その理由を探し出してはいけない気がする。
探し出してしまったら、何かが変わってしまう……もう元の自分に戻れないと、漠然とではあるが思ってしまうのだ。
だから自分が弱り切っているせいだと思う事にする。
痛みと不安で弱った挙句、落ちた涙だと。
ガチャリと扉の開く音がする。
一瞬の静寂の後、ガシャンと何かが落ちて割れる音が続いた。
気付けば涙は止まっていて、エリルシアは顔を覆っていた左腕を下ろすと、音がした方へ顔を向ける。
「……ぁ…………ぁ、ぁああぁ……」
スザンナがボロボロと泣いていた。
「…す、すぐに…報せ…を……ぅぅぅ…ぁぁりがとう、ございます…神様、ありがとうございます…」
音を聞きつけた他の侍女がやってきて、スザンナの様子に何かを察したのだろう。
『御目覚めに…』と言う呟きの後、一気に騒々しくなった。
医師を呼んだり、各署へ報告も走ったのだろう。
一番に駆け込んできたのは両親だった。
「エリィ!!」
「エリィ…あぁ、良かった……もう、このまま目覚めないんじゃないかと……怖かったわ…」
両親の顔も涙でぐしゃぐしゃで、どことなく窶れて見える。
随分と心配をかけてしまったようだ。
その後直ぐに医師達がやってきて、両親は部屋の外に出される。
無駄に念入りな診察と手当の後、再び両親が入ってきた。
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