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「情けない限りです。
王子殿下の方が、ずっと冷静でいらっしゃっいました……。
それなのに私は……」
彼の自嘲交じりの視線を追いかけた先には、微かに震える手があった。
何と言葉を掛ければ良いのかわからない。
しかし考えれば、別におかしな反応ではないだろう。
断言はできないが、レヴァンはまだ11歳とか12歳とか、そんな年齢だと聞いた覚えがある。
前世で言うならまだ小学生だ。
しかも治安に不安があるとは言え、ロズリンドは戦争等をしている訳ではない。貴族の子女が血生臭い荒事に慣れる機会等ないに等しい。
ラフィラスにしたって姉ティルシーと同じ学年のはず。
となれば13歳か14歳……中学生でしかも箱入り王子サマなのだから、こんなに落ち着いている方が反対に不気味なくらいだ。
パニックになったりされるよりは、ずっとマシではあるけれど…。、
ま、言ってしまえばエリルシアが規格外…もっとはっきり言うなら異常なだけである。
自ら望んでそんな境遇になった訳ではないが、別に不幸だとも思っていない。
前世以前の記憶を取り戻した今となっては、ラッキーだったと思っているくらいだ。
(そうよ!
だって折角魔法をゲットしても、使う機会もないなんて、あんまりだと思うもの!
冒険者として登録してて良かったぁ!!)
何はともあれ、一段落出来そうで良かった。
ラフィラスは発見された護衛兵の中で、動けそうな者と何やら話している。
レヴァンは凹んでいるようだが、さっきより顔色はマシになっていた。
騎士ヨナスは、今も子供を宥めている。
教会から出てきたシスター達に、直ぐにでも引き渡したい所だろうが、今はシスター達の方が手当だ何だと忙しそうなので、彼が子供の面倒を見ているのだろう。
ハプニングに見舞われた場は、落ち着きを取り戻しつつある。
事件のあらましは、彼等が説明するだろう。
最早エリルシアがこの場に留まらなければならない理由はない。ならばさくっと苗を受け取りに行っても良いだろう。
とは言え、無言で姿を消すのもどうかと思い、ヨナスに近づいた。
彼が宥めている子供を見れば、まだガクガクと震えている。
あぁ、失敗したかもしれない……と、エリルシアは頭を抱えたくなった。
何としても突きつけられた剣をどうにかしなければと、子供を盾にしていた小物の腕を捻り上げた。
その痛みのせいで小物はあられもなく叫び、子供はその絶叫を間近で聞かされる羽目になった………なって……しまった…。
元凶となったエリルシアは怯えられるかもしれない。
そんな事を考え、ヨナスの背後からそっと声を掛けた。
「(すみません)」
「あ、これは…」
ヨナスが言葉を続ける前に、口元で指を立てて静寂を促す。
一瞬怪訝な顔をしたヨナスだったが、あっさり頷いてくれたので、エリルシアは続けて囁いた。
「(私は失礼しても宜しいですか?
事情聴取とかは私でなくとも、皆さんで事足りるでしょうし…。
今日は用があって出てきたので、其方の方に行きたいのです)」
ヨナスは少し考えてから再び頷き、同じく小声で話し出した。
「(承知しました。
ですが報告はしても問題ございませんね?
流石に黙っておく事は…)」
まぁ、言い分はわかる。
どのみち領地へ戻りさえすれば、王都とは無関係になるはずだ。
(………っ…。
あれ…?
何だか、苦しい?
ん……違う、ような……痛い、感じ?
まさかあんなに動いたのは久しぶりだったから、気付かないうちに何処か打ち付けちゃったかしら…)
自分の胸元を押さえて黙り込んだエリルシアに、ヨナスは首を傾げながらも声を掛ける。
「(どうかなさいましたか?)」
「(ぁ、いえ、何でも…)」
「(……………)」
最後の無言は気になるが、とりあえずこの場を離れようと、エリルシアは借りたマントを手で押さえながら歩き出した。
その刹那、子供の悲鳴が響き渡った。
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