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ふと空を見上げる。
もう一つくらいなら別の孤児院にも行けるだろうかと、空の色を見るが怪しいかもしれない。
だが、今日の予定はこの孤児院だけだったので、予め警備兵が配されているのは此処だけだ。
それを思うと急な予定変更は躊躇われる。
それに強行したとして、諸々の手配に時間が掛かってしまえば、あまり余裕を取れなくなるだろう。
流石にそれは孤児院側にも悪いし、何より子供達が可哀想だと、ラフィラスは馬車へと歩きながら王宮へ戻ると告げた。
だか、微かな違和感に足を止める。
警備の為、人の通りが制限されているのは何時もの事だ。
しかし……気配は疎か、声も、遠目に見える護衛兵の姿もないと言うのはどう言う事だ?
そして微かな異臭……。
最初は、一瞬の事に錯覚かと思った。
だが、違う……。
微かな甘さを含んでいる癖に、妙に胸が悪くなる様な臭い…。
ラフィラスの前を行く護衛騎士は、既に剣を抜いて構えている。
「ヨナス……」
ラフィラスが思わず声に出したのは、前を行く護衛騎士の名。
ヨナス・カプロン――ラフィラスの護衛に付いてくれる事が比較的多い騎士の一人だ。
「えぇ、少しばかり不味いかもしれません。
このまま進まず、一旦教会の方へ戻った方が良いかも……。
公子殿、殿下を教会の方へお願い出来ますか?」
「待って」
ヨナスの言葉にレヴァンは黙って頷き、来た道を戻ろうとするが、ラフィラスが止めた。
「戻る訳には行かない。
シスターや子供達を危険に晒す事は出来ない」
「しかし…」
ラフィラスの言葉に、ヨナスも理解出来る部分があるのだろう。
言葉に勢いはない。
止めたいが、止める為の決定打がない……そんな感じ。
「ヨナスなら僕よりもこの状況がわかるよね?
僕達が進む先…馬車のある方向から音が聞こえない…」
「……そう…ですね…私から離れないようにしてください」
レヴァンは一瞬目を見開いて固まった。
王子の身の安全を考えるなら、こんなおかしな場所に澱まらせるべきではない。
直ぐに引き返して護衛兵の到着を待つべき……そう思った。
「ごめん。
けれど援護を待つ事も呼ぶ事も難しい…」
ラフィラスは、レヴァンを振り返る事なく言葉にする。
焦るでもなく、激高するでもなく。
この状況でなければ、平素と何ら変わりなく感じてしまう。
だが…何故レヴァンの考えた事がわかったのだろう?
声に出してはいないはずだ。
「はは…一応腐っても王族だからね…。
襲われた事は初めてじゃない」
ただのお飾り、頭も軽い箱入り王子と思っていたが、確かにレヴァンが預けられていたネデルミス王国より、ロズリンド王国の方が治安は悪いかもしれない…。
そう考えて頷き掛けた時、後ろから声が追いかけてきた。
「あれ、王子様ぁ~~!!」
甲高く幼い声だ。
もう帰ったとばかり思っていたラフィラスの姿に、嬉しくなったのだろう。
屈託のない声には警戒の色等、微塵も見当たらない。
ハッと瞬時に振り返る。
さっきまで一緒に居た孤児院の子供だ。
お使いでも頼まれたのだろう。嬉しそうに手を大きく振り上げて振っている。
「まだ帰ってなかっ……!」
言葉はそこで途切れた。
『何故』と問う必要もない。
言葉を途切れさせた子供は、覆面の男に抱きかかえられ、その首元には剣の切っ先が向けられていた。
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