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「そろそろ……」
騎士に声を掛けられ、立ち上がったのは顔を仮面で覆った貴族の少年。
周りに集っていた子供達の表情が曇る。
「まだ遊びたい…」
「王子様、もういっちゃうの?」
「まだ明るいじゃん!」
そう、仮面の少年はラフィラスだ。
王族の慰問と言うだけでも警備が大変なのに、ラフィラスの美貌まで加わっては護衛が過労死してしまうだろう。
その為、ラフィラスが孤児院に限らず慰問をする際は、仮面で顔を覆うのが常となっている。
慌てたシスターが、駆け寄って子供達を宥めた。
「我儘を言ってはいけませんよ?
殿下はお忙しいんです。
きっとまた、此処いらしてくださいますから、今日はちゃんとお礼を言ってさよならしましょうね」
優しく諭すシスターの言葉に、子供達は再びラフィラスを見上げた。
「ほんと?」
「絶対またきてくれる?」
「約束だよ? おいら、次は剣を教えて欲しいんだ!」
不安そうな顔をする子供や、次を期待する子供達に、ラフィラスは穏やかに頷いた。
「うん、勿論。
約束するよ」
そんな中、一人の女の子が周囲をぐるりと見回した。
「今日はピンクのお姉ちゃんいないのね」
ラフィラスの頬が微かに引き攣った。
どう伝えれば良いのかと悩む前に、別の子供が口を開く。
「いいじゃん。おいら、あの姉ちゃん嫌いだ」
「実はあたしも…」
子供達の正直な感想にシスターが慌てた。
「も、申し訳ございません!!
これ! 早く謝って!!」
そんなシスターをラフィラスは止めた。
すると子供達はまた口々に言葉にし始める。
「あのお姉ちゃん、いっつも睨むの…」
「うん、王子様とお話ししようって近づくと、すごく怖くて」
「鬼か悪魔かって顔だったよな!」
「あたしなんか突き飛ばされたわ」
ラフィラスはそっと目を伏せた。
本当に自分は何も見えていなかったのだと痛感する。
仮面で表情まで隠せる事を、こんなにありがたいと思った事はない。もうアーミュに抱く思いは変質していて、最早、情とも思慕とも呼べない何かになっている。
だからこそ表情は歪んでしまうだろう。
再び子供達を目線を合わせる為に、ラフィラスは地面に片膝をついた。
「そんな怖い思いをさせていたなんて…気付かなくてごめん。
もうあの人は来ないから安心して良いよ」
「ほんと?」
「やったー」
子供達の喜びようを見れば、アーミュがどれほど子供達に悪意を向けていたかがわかる。
そんなラフィラスに、騎士が再び声を掛けた。
「殿下…」
虚ろになっていた目に、騎士の声で光が戻る。
「…ぁ、ごめん」
立ち上がって子供達に顔を向ける。
「また来るよ。
だからシスター達の言う事を聞いて、次も元気な姿を見せて欲しい」
「うん! 約束!」
「またね!」
「きっとだよ!?」
子供達とシスターに別れの挨拶をすると、ラフィラスは孤児院を後にして教会に抜け出る。
教会ではレヴァンが待っていた。
「待たせてごめん」
ラフィラスの言葉にレヴァンは一礼する。
レヴァンも一緒にと誘ったのだが、ラフィラスに負けず劣らずの美貌を誇るレヴァンまで加わっては、騒ぎになってしまうかもしれないからと、今回は教会で待つ事になった。
ラフィラスを挟むように、前に騎士、後ろにレヴァンが付いて、護衛しながら歩きだす。
教会と言っても、本当に小さく他の建物に埋もれる様に存在しているので、馬車まではもう少し歩かねばならななかった。
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