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部屋から出たは良いが、さてどうしよう…と、エリルシアは唇に指先を押し当てて考え込む。
これまでのように図書館や魔具保管庫に向かっても良いが……。
無言で自分の手を見つめる。
そして先日の、ラフィラスとの一幕を思い出した。
途端に沸騰しそうになる。
無意識に自分の頬に伸ばした指先は、確かに熱を感じ取った。
(いやいやいやいや、あ~……っと…なし。
うん、なし!)
ふるふると頭を振る。
だって、もしラフィラスに会ってしまったら、どんな顔をして良いかわからない。
ならば…と考えて、思い出した事がある。
苗を預けたままだった。
先日レヴァン達に連れて行ってもらった露店通りで、エキナセアに似た植物を見つけて購入したのだが、植物も生き物だからお世話が必要になる。
あの時は王宮を出る日取りも決まっていなくて、その間のお世話をどうしようかと悩んでいると、露店の店主が気の良い人で、帰る時に取りに来てくれれば良いと言ってくれたのだ。
(よし、それを受け取りに行きましょ!
露店通りなら一人でも行って帰れる距離だったし……行ってささっと帰ってくれば、護衛をお願いしなくても大丈夫……よね?)
正直言うと、王都の正確な犯罪率を知らない。
警戒して然るべきなのだけど、エリルシアは対人経験はないとは言え、魔物を一人で狩る腕はある。
だからきっと大丈夫と、一人外を目指す事にした。
光があれば闇がある。
王都にも、人通りで賑わう表もあれば、貧民達が集うスラムと言う裏もあった。
そのスラムに程近い場所には小さな教会があって、そこには身寄りのない貧しい子供達が暮らす孤児院が併設されていた。
スラムに近いけれど教会という場所柄、普段は人の出入りも少なくないのだが、今日は妙に少ない。
その、人の出入りが減る日と言うのはある程度決まっていた。
「(へぇ……本当に居やがる…)」
「(あの女、囮以外で役に立つとは思わなかったな)」
「(でもどうするよ? 護衛が多くないか?)」
「(おい、ちょっと聞いてこい)」
破落戸共の一人が、そっとその場を離れる。
入り組んだ路地を進むと、ローブを着込んで全身を覆った人影が2つ。
破落戸はその人影に近づくと、声を潜めて囁いた。
「(確かに現れやしたが、護衛が多そうっすよ)」
ローブ姿の一人が、もう一人へ頭を向ける。
「(おい、どうなんだ?)」
問う声は嗄れていた。
それに答えるもう一人のローブからは、少女の声。
「(護衛って、衛兵でしょ?
奴等は馬車の周辺に突っ立ってるだけよ。
ま、騎士が問題だけどね~。でもそっちは居ても一人か二人だけ。
問題ないでしょ?)」
嗄れ声のローブ男が、再び破落戸の方へ向き直った。
「(だとよ。
で? やれそうか?)」
「(騎士が少ないってんなら、まぁ……。
衛兵共が持ってるのは槍なんで、細い路地にひきこめりゃ大した事はなさそうですや)」
嗄れ声のローブ男が頷いてから顎をしゃくると、破落戸の方は来た道を戻って行った。
それを見送ってから、嗄れ声が話し出す。
「(それにしても、なんでわかったんだ?
以前から予定があったのか?)」
「(予定なんか知らない。
けど、毎年だったから、今年もそうじゃないかな~って思っただけ。
学院の長期休暇が終わる前の恒例って感じ…こんな汚い場所にさぁ…。
訳わかんないよね~)」
少女の声には呆れが滲み出ていた。
「(そうかい。
ま、おめぇも好きにやるといい。
俺等は俺等で暴れるからよ)」
その声に頷いた少女のローブからは、ピンク色の髪が一房覗いていた
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