53 狭間の物語 ◇◇◇ レヴァン3
「レヴァンを戻したのは王子殿下をお支えする為で、政略の駒に使う為ではないぞ」
「う……」
ジョストルがレヴァンに向き直って、酷く申し訳なさそうに眉尻を下げる。
レヴァンは知らないだろうが、こんなにわかり易く感情を乗せた表情は、ジョストルにしては珍しい。
「すまない…私がもっとしっかりコレを監視しておけば良かった」
ジョストルに叱られて狼狽えるウッカーの姿に、溜息が出そうになるのを無理やり止める。
覆水盆に返らず……今更時間は戻せないが、ジョストルが味方してくれるならそれで良いと、レヴァンは執務室を後にしようとした。
だが、ウッカーが慌てて呼び止める。
「あ、ちょ、待って!!
えっとねぇ……その、もう断るのは無理って言うか……えへ」
ぶっちゃけ…ウッカーのヴィジュアルは悪くない……悪くはないがいい年したおっさんが所謂『てへぺろ』をしたとして、不気味なだけだ。
レヴァンは無意識に自分の腕を擦った。
「ウッカー……大概にいたせよ…」
「待って! 父上待って、殺さないで!!
……悪くないって思ったんだよ。
だってユーソムだよ?
爵位は低いけど、流通に噛んでて儲けてるあの家だよ?」
ジョストルはガクリと肩を落とす。
「………お前の頭にユーソム子爵家が関与する諸々がちらついたのはわかった……だが、仮にも貴族の端くれなら、自分で調べてからにしろ。あの家の利権なんぞ高が知れている……」
「え!?
そうなの!? それは困ったな……あぁ、どうしよう……」
これが父親と言う生物なのかと、レヴァンは呆れ返った。
その認識は間違っていると訂正したくても、それが可能な状況ではない。
「で?
日時は?」
地鳴りの如き重低音を伴ったジョストルから睨まれ、ウッカーはヒィィと震え上がる。
「ぅぇ、あ…その……2日後……」
「馬鹿者が!!!
お前は本当にどこまで……レヴァンは隣国から戻ったばかりなのを忘れたか!!??
幼き頃より此処から離れ、どれほど寂しい思いをさせたと思っておる!?
どれほど辛かっただろうと……慮ってやる事も出来ないのか……」
ジョストルは目頭を押さえた。
「すまぬ…私の育て方が悪かったのだろう…本当にすまぬ」
ジョストルはウッカーを睨み据える。
「ユーソム家の段取りも面子もある。
だが2日後等と言う無理をさせる事は許さん。
ふむ……次の登城日にしろ。場所は王宮入り口で良いだろう
そう伝えておけ」
「そんな、それじゃゆっくり顔合わせも…」
「当然だ!
本人が断ると言っておるのだから、長々と話をする必要はない。
レヴァンも……本当にすまない…」
相手の面子や今後の関係性等、レヴァンにはまだわからない何かがあるのは仕方ない。
貴族である以上、そう言った事はどうしたってついて回る。
それをジョストルがここまで譲歩してくれたのだからと、レヴァンも受け入れる事にした……というか、これ以上抗うのは反対に悪手だろう。祖父まで敵に回すのは宜しくない。
実父に対する評価は下がりまくったが、こればかりは諦めるしかなさそうだ。
せめてこれ以上被害を及ぼさないで欲しいと願うばかりである。
こうしてレヴァンが王宮へ向かう日が決まった。
レヴァンを見るなりうっとりと頬を染めた子爵令嬢は気付いていなかったが、付き添っていた子爵本人は緊張で死亡寸前だ。
もしかすると彼の眼前には、大きな川と花畑が広がっていたかもしれない。
何故なら、付き添っていたのは父親ウッカーではなく、ロージント公爵その人だったからだ。
しかも冷え切った無表情付き。レヴァン本人に至っては完全無視の無表情。
令嬢の方は兎も角、子爵の寿命は確実に縮まった事だろう。
………奇しくもその日は『恋のお茶掛け事件』当日。
レヴァンがエリルシアと出会うのは、もう少しだけ後の事……。
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