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「ウィスティリス嬢との顔合わせは、単なる見せかけだけのはずだったのだがな…」
「お義父様の希望だけでしたら、ロージント公爵が抑え込んでくれたでしょうけど、フィス本人までが令嬢を気に入っている様子…」
フィミリーがほぅと疲れ切った溜息を零した。
「最初からなかった事になる見合いではあったが、まだ令嬢が王宮内に留まっている間に、ロージント公子が動くのも不味い。
このままでは王家に対し翻意ありと、受け取る者達も出てきそうだ…」
「そう言えば、先だってのニフニル伯爵家を始めとした令嬢達との顔合わせは如何でしたの?
何かお聞きになっていらっしゃらないのですか?」
フィミリーの問いかけは、先日行われたラフィラスと令嬢達との見合いの事だろう。
だが、その問いにラカールは瞬時に渋面となった。
「使用人達から話は……。
まぁ、無難と言えば無難か……」
「御顔をみるに、決して無難だったとは思えませんが…」
ラカールが唸りながら髪を掻き毟った。
「ウィスティリス嬢と対面してから、フィスは本当に変わったらしい。
更にあの小間使い放逐以降は、父上が大人しくなってくれたからか、王族としての自覚も出てきたようだ。
あれまでは父上が囲い込んでいた事もあって、私達とは殆ど接点を持てない状態で、心配する事しか出来なかったからな。
だが、我が子の状況を、こう…伝聞の様にしか話せないのも情けない…」
「そうですわね。
近付けない期間が長すぎて、未だ互いにぎこちなくて、情けなく感じるのは私もです…。
そう、この前の事なんですけど、あの子ったら私に庭の花を摘んできてくれましたのよ。とても……本当にとても嬉しかったわ」
ホメロトスの手前か、まだ親子としての時間はあまり持てないようだ。
「すまない……こうなる事はわかっていたのに…。
フィミリーには辛い思いを長くさせてしまったな」
「ふふ、今更何をおっしゃいますやら。
私も覚悟の上だったのですから、気に病まれても困りますわ。
それで?
その『無難』と言うのをお聞かせくださいません?」
「う……」
ラカールは『無難』の一言で済ませたかったようだが、フィミリーとしては大事な息子の婚約者選定を、等閑にする気は全くないらしい。
「……まぁなんだ…ウィスティリス嬢を知った後だと…なぁ…。
フィスの気持ちもわからなくはない…と言うより当然か…」
「まぁ、そんなに酷い状況でしたの?」
フィミリーがあり得ないと言いたげに、口元を扇で覆った。
「いや、酷いと言うか……ごく普通の令嬢、と言う事だよ。
確か聞いたのは…供された紅茶から、フィスは茶葉の話に広げようとしたらしい。
産地の違いだとか、外交の話だとかに繋げようとしたんだそうだが、令嬢達はどこぞの菓子が美味しいだの、あそこは見た目が可愛いだのと…そんな話に終始したと……」
「……まぁ………………まぁまぁまぁまぁ!」
フィミリーが扇を閉じてニコリと微笑む。
「令嬢同士の茶会ならいざ知らず、王子との対面の場で……お粗末ですわね…」
「まさかその程度だとは思わないだろう?
ニフニル伯爵には前もって話は通したはずなんだが……それであの状態だとな…」
「ウィスティリス嬢が更に際立ってしまいますわね」
ラカールがぐったりと項垂れ、肩を落とした。
「全く……頭が痛いよ…」
「ですが…それもこれも私達の身から出た錆ですものね…」
フィミリーも苦し気に目を伏せる。
「だが、あの時はあぁするしかなかった。
あのままネデルミス側との対面の為に受け入れをしていたら、ツヌラダ王国に隙を見せていたかもしれない。
まぁ彼処は、今も頭痛の種ではあるが…」
「そうですわね…隙を見せないように頑張り続けるしかありませんわ。
ですが…本当にあの時動いていたのは『国』ですの?
ツヌラダ王国としては本当に縁を持ちたかっただけでは…今更詮無い事ですが…」
ツヌラダ王国と言うのは、ロズリンド王国の南東側に位置する貧しい国だ。
王家は存続しているが、常に国内は小競り合いで疲弊し、内乱の危機を抱えている。
そのせいか犯罪組織が幅を利かせている国であった。
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