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途端に視界が揺れる。
抵抗する暇どころか、気付けばラフィラスの腕の中だった。
(……は? ……え?
何事? ……………へ? あぁ?……あ~…なるほど…。
やばいなぁ、確実に私、現在絶賛夢の中でしょう……明晰夢って奴よね)
疲労とストレスによる明晰夢だと、エリルシアが判じたのも無理はない。
正直言って、ラフィラスもレヴァンも、エリルシアからすれば雲の上の存在だ。
自身も『侯爵令嬢』だろうと総突っ込みが来そうだが、これは前世以前の記憶云々と言うよりも、普段の記憶に基づいた感覚が大きい。
優雅な貴族令嬢の生活等、物心ついてから以降、エリルシアはほぼ経験した事がない。
王宮内でも……確かにドレスを着て優雅にお茶と言うのは経験出来たが、それだけの事だ。実際には図書館蔵書や魔具保管庫収蔵物の調査、派遣教師による講義等々、なかなかに過密スケジュールで動いている。
まぁ、はっきり言えば生まれは貴族だが、感覚は社畜…これに尽きる。
それにより、生粋のお貴族様を前にすると、何と言うか……そう、例えるなら液晶越しのアイドル……つまりは別次元の存在みたいなものと捉えてしまうのだ。
彼等の表情や性格諸々を、どれほど知っても自分と同列に考えられるはずもなく、何処まで行っても他人事……自分からは遠い存在と言う感覚が抜けない。
実体を伴って触れるなんて、可能なはずがないという大前提がある為に、脳の処理限界をやすやすと飛び越えて、現実に自分の身に起こっている事だと認識しきれないのだ。
「ぁ、ご…ごめん!」
慌ててラフィラスが腕を緩めてくれた事で、やっと脳細胞が活動を再開してくれたらしい。
そして一連の事が現実だと認識する。
エリルシアも『うわ』と叫んで、ラフィラスから飛び離れた。
甘酸っぱい様な、何とも居たたまれない空気が流れる。
「ごめん…御令嬢に許可なく触れるなんて……本当にごめん。
……けれど、ありがとう。
それで、あの…「うわわわわ、すみません、し、失礼しますね!」あ…」
不敬を問われるかもしれないが、そんな事は綺麗さっぱり頭から吹き飛んでいた。
くるりと背を向け、足早にその場を後にしようと踏み出す。
そんなエリルシアの背中に、ラフィラスの声が追いかけてきた。
「婚約候補の件!
……少しでもいい、僕にチャンスをくれないかな……。
このまま別離は…したくないんだ」
背中越しの声に、エリルシアは振り返る事も出来ないまま、とうとう逃げる様に走り出した。
(んがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
反則でしょ!?
あんな展開、頭が追い付く訳ないじゃない!!
もしや脳への酸素供給が止まってた? あわやの臨死体験だった?
その程度には衝撃展開よ!!
何より………。
……………何より……。
私、8歳のガキンチョよ?
えええ!!?? 王子殿下ってばロリコンなの!!??
ぃぁ…普通に不敬だわね…考えれば5歳程度の差だし、ロリコンではないのかもしれないけど、それにしたって反則でしょう? 反則反則販促…じゃない、反則だわよ!)
走って走って走って、行儀もマナーもあったモノではないが走り続けて…自室として与えられた部屋に駆け込む。
そして扉を閉めるなり、エリルシアはその場にズルズルとへたり込んだ。
「ラカール様…」
王太子妃フィミリーが、難しい顔で腕組みをする夫であり王太子であるラカールに、不安気な声を掛ける。
「…ぁ、あぁ……困ったな…」
「はい…彼の小間使いを引き離せたのは僥倖でしたが……」
ラカールもフィミリーに同調する様に、視線を床に落とした。
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