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終点は首元。
ラフィラスは、エリルシアを飾るエメラルドを見つめていた。
「……ぁ、あの…」
困ったように声を掛ければ、ラフィラスがハッとした様に身じろぐ。
「ごめん…」
だけど、そのまま沈黙してしまう。
エリルシアも、何をどう言葉にすれば良いかわからない。
ラフィラスは言葉を探すように視線を泳がせた後、エリルシアに微かな苦笑を向けた。
「ごめん、不躾だったよね。
女性をじっと見つめるなんて……許してくれると嬉しい」
「ぇ、ぁ…そんな…謝ったりなさらないで下さい…」
レヴァンからのちょっぴり問題のある贈り物を、見咎められたように感じて狼狽えてしまっただけで、別に不快だとか感じた訳ではない。
茶番とは言え、エリルシアは出演者の一人なのだから、ラフィラスが謝罪の言葉を口にするのもおかしな話だ。
「けれど、羨ましいって思う…」
「……ぇ?」
言葉の意味を理解出来ずきょとんとしていると、ラフィラスが一歩近づいてエリルシアの手を取った。
「!」
恥ずかしいやら困るやらで、思考は停止している。そのせいで、エリルシアは歩き出したラフィラスに付いていくしかない。
手を握られているのだから逃げようもないが、引かれているうちにゆっくりと感情が凪いでいった。
思えば、誰かに手を繋いでもらうなんて何年ぶりだろうと、エリルシアはしっかりと握られた手を見つめる。
そして無意識に微笑んでいた。
「笑うなんて酷いな」
言葉だけなら怒っているのかと思えたが、声音はとても優しくて、ほんの少し沈んでいるように感じる。
「殿下…」
見えてきた噴水の近くまで行くと、ベンチの一つにラフィラスがハンカチを敷いてくれる。
ラフィラスも隣に座って、何処を見つめるでもなく話し出した。
「僕には自由になるお金はない。
お金だけじゃない…時間も何もかも…。
予算はちゃんと割り振られていて、全く自由になるお金がない訳じゃないけれど、僕の頭の先から足の先まで、全てが民の税だから、自分の感情のまま使うのは違うと思う…だから使えない。
民の為、この国の為に僕は生まれて、そして生かされている。
けど、いつか僕がちゃんと自分の自由になるお金を手に入れたら、その時は何か贈り物をしても良い?」
エリルシアは思わず目を瞠った。
遠くを見ていたラフィラスと見つめ合う。
―――根っから良い人なんだな…
これまでも感じていた。
ラフィラスは本当に素直で、正直で、そして真面目だ。
それ故、ただの演者でしかないエリルシアを、ここまで尊重しようとしてくれている。
けれど、それでは彼が納得して自由に出来るお金なんて、手にする日は来ないのではないだろうか?
まぁ、そんな抜けたところも、ラフィラスらしくて嫌いではない。
少しばかり女性を見る目は心配になるのも事実だけど、それはエリルシアに関係のない話だ。
5歳程も年上の王子殿下に対して、不敬すぎて申し訳ない気分になるが……。
「王子殿下、その頃には私は王都に居ないと思います。
ですのでお気持ちだけで、本当にありがとうございます」
だがラフィラスはムゥと唸ってしまった。
何か間違えただろうか……?
「えっと、ほら……王子殿下も御存じでしょう?
私は茶番見合いの、婚約者候補にもならない候補で、成立しない相手だからこそ招かれたのだと。
と言うか、そもそもこんな茶番劇そのものが必要なかったと思いますけどね。
王子殿下の御母君も伯爵家の御令嬢でいらっしゃいましたし、最初から伯爵家の御令嬢との見合いで問題なかったと思うのです…って、私が口を挟む事でもないですが…それに…」
エリルシアはその後の言葉を続けるべきかどうか、本気で迷うが、その前にラフィラスが口を開いた。
「……そう、だね。
両親や公爵達に会うように言われて、何人かとは会ったけど…」
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