45 狭間の物語 ◇◇◇ アーミュ4
嗄れ声のローブ男が相槌を打つ。
「ほうほう」
感情の見えないその声が気に障ったのか、アーミュが声を荒げた。
「何よ、嘘だって言いたいの!?
あたしは嘘なんて言ってないッ!
本当に本当なんだから……フィスが愛してるのはあたしなのよ…絶対に…。
あたしがフィスのお姫様なの!」
「「………」」
アーミュの激高に呆れたのか、薄汚れた室内に居心地の悪い沈黙が広がる。
胡乱な中年男性の方は、不信感を露わにするように眉間の皺を深くしていた。
「あぁ、そうだな
お前が一番さ」
嗄れ声のローブ男は、まるで子供の御機嫌を取るような声で肯定する。
尤も声のトーンを上げたとて、男の声が聞き取りやすくなる訳ではなかったが…。
後ろに控えた胡乱な男の方は、己にとって主人だか上司だかになるのだろうに、信じられないと言いたげな目を向けた。
だが、アーミュには満足のいく返答だったのだろう。
パッと顔を輝かせた。
「あんた、わかってるじゃない!
そうなの、フィスはあたしのものなの……それなのに、あの女……あぁそう、王サマもよ。あの死に損ないも、あたしとフィスの邪魔をしてるんだわ」
「あぁ、邪魔だな」
「そうなの、すごく邪魔」
アーミュは憎悪を撒き散らしながら、虚空を睨み付ける。
その様子を見ながら、ローブの男は懐から何かを取り出した。
「そうだな。
お前が居るのに、他の女に目移りしたってんなら許せんよな。
じゃあ、王子サマにはちょっとしたお仕置きをした方がよくないか?」
「おしおき……?」
嗄れ声のローブ男は、取り出したものをコトリとテーブルに置く。
「そうさ、お仕置きだ。
お前が死んでやる~とかって王子サマを脅すもよし。
なんなら許さないとか叫んでさ、王子サマに斬りかかるのもいいんじゃぁないか?」
声には嘲りの色がたっぷりと満載されている。
だが、アーミュはそれに気付いていないのか、満面の笑みを浮かべた。
「あは、それ……いいかも。
でも悪いのはあの女と王サマよ。フィスじゃない…」
「そうかそうか、ま、どっちでもいいさ。
これをくれてやろう」
テーブルに置かれた物に、アーミュは視線を移す。
「………でも、もう……近付けない…。
あぁ、なんで? どうして?
あの女と王サマのせいで、あたしはこんなにみすぼらしくなっちゃった…あたしが……あたしが一番可愛くて輝いてんのにッ!!」
頭を掻きむしり始めたアーミュに、胡乱な男の方は付き合い切れないと言いたげだ。
「だ~か~ら~、聞けって。
それがありゃ、その女ってぇのでも王サマでも、お前の王子サマにでも、痛い目見せられるじゃないか。
しっかりお灸を据えてやろうぜ? な?」
ローブの男はアーミュにそれを握らせる。
「……そっか…そうだよね。
お仕置きして思い知らせなきゃ」
握らされた短剣を、アーミュは鞘ごと抱き締めた。
何処か恍惚としたアーミュをその場に残し、嗄れ声の男性は、胡乱な男を引き連れて部屋を出る。
扉が閉まる音を聞いて振り返った。
「現実を直視出来ない女ってなぁ、哀れなもんだな。
だからこそ、丁度いい塩梅に踊ってくれるッつうもんだが」
「けどよぉ、あんなほけ~っとした女で成功しますかねぇ…」
「お前はホントにあほうだな。
あの女は囮だよ囮。
王族じゃなくても、貴族に近づこうと騒ぎを起こしてくれりゃ、それでいい。
実際に動くのは俺らっつーか、凶手どもなんだからな」
『へい』と頷く中年男性に、嗄れ声の男は頷いた。
「そんでもってこの国が混乱してくれりゃぁ、俺らもウハウハ出来るってぇもんさ。
ま、後はお頭の指示待ちだな。
とにかく、あの女を逃がすなよ?
大事な踊り子サマだ」
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