36 狭間の物語 ◇◇◇ アーミュ1
目の前で鉄柵の扉が、ガシャンと重い音を立てて閉じられた。
「な……なんで、よ……。
何であたしが出て行かないといけないのよ!?」
城門の1つではあるが、目立たない裏門から放り出されたアーミュは、鉄の柵に縋りつく。
ガシャガシャと揺さぶってみるが、屈強な門番達はアーミュを無視していた。
「あたしはフィスが一番大切にしてる女なの!
愛されてるお姫様の言う事を聞かなかったら、どうなるかわかってんでしょーね!?
さっさとここを開けないさいってば!
ああもう!! フィスに…ううん、王サマでも良いから早く取り次いでよ!!」
一瞥さえ向けない門番達の後ろから、騎士らしき男性が進み出た。
「高位貴族令嬢への身分を弁えぬ所業、本来であれば斬首か絞首が妥当だが、温情をもって放逐となったんだ。
ありがたく思え。
以後王宮へは近づくな」
「そんな!!
あ、ありえない……フィスがあたしを放り出したって言うの!?
嘘よ!!」
騎士が冷ややかに見下ろす。
「王子殿下の御愛称を口にするのも許し難い。
疾く去ね」
くるりと背を向けた騎士に、アーミュは往生際悪く叫んだ。
「だから、王サマかフィスに聞いてよ!!
王サマもフィスも、可愛いあたしを見捨てる事なんてないんだからッ!!」
背を向けた騎士は既に歩き去っている。
門番の一人がニタリと、嫌な笑いを浮かべた。
「とんだアバズレだな。
言うに事欠いて王子殿下の女だとよ」
「王子様だけじゃなく王様にも股開いてるってか?
ひぇ~、下品なだけじゃなく身の程知らずな女だな」
下劣な揶揄にアーミュは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「そんな事する訳ないでしょ!!
あたしは、お、お姫様なんだからッ!!」
「おい聞いたかぁ?
『お姫様』だとよ。お姫様って、人々の尊敬とか崇拝ってのを捧げられる存在なんじゃねーの?
てめぇみたいな薄汚れたドブネズミが、お姫様なんて天地がひっくりかえってもあるもんか」
「ッ!」
「こりゃ不敬でもっかい捕縛した方が良いんじゃねーか?」
ヒャヒャと下卑た門番達の笑い声が、アーミュの心を抉る。
「ま、俺等も噂くれぇは聞いた事があったがよ」
わざとらしく言葉を切った門番だったが、アーミュはパッと顔を輝かせた。
「でしょう!?
あたしはフィスの一番なの。
あんたはわかってるのね。 だったら早くここを開けて!
でないと…」
次の言葉が飛び出すより早く、門番が手に持っていた槍を地面に突き刺した。
「ヒィッ! ぁ、な…なに」
まさか槍で威嚇されるとは思っていなかったアーミュは、震え上がって鉄柵の扉に掛けていた手を離した。
「正真正銘のバカなんだな……。
そんなトコで喚いたって、もう誰もお前なんか気にしやしねぇよ。
とっとと失せろ。
まだ騒ぐなら、ほんとに殺すぞ」
ギロリと向けられた視線の剣呑さが、言葉が嘘でないと言っている。
アーミュは慌てて立ち上がり、その場を後にした。
王宮から放逐されたなら、もう行ける場所は家しかない。
其処しかないとはっきりしているのに、アーミュは踏ん切りがつかず、とぼとぼと回り道をしていた。
貧民街に近い場所で、治安も決して良いとは言えない一角にある為、帰るなら早々に向かった方が良いのだが、アーミュは尚も迷い続ける。
病気の母親と生意気な妹、そしてアーミュがラフィラスと幼馴染になる切っ掛けとなった祖父ホッズと、妻である祖母も一緒に其処で暮らしている。
父親が亡くなり、母親が病に倒れ、フリンスル家の経済状況は一気に悪くなった。
それでも祖父が馬丁として働いていた間はまだマシだった。ホメロトスが親友と言って憚らないホッズの給金に色を付けていたからである。
おかげで母親も、内職程度なら熟せるくらいに回復したらしい。
そんなホッズも年齢のせいで馬丁を続けるのが難しくなり、王宮を去る事になった。
ホッズが王宮に出入りする事はなくなったが、入れ替わりの様に成長したアーミュが、ラフィラスの小間使いとして迎えられた。
だからホッズの後はアーミュが家計を助けてくれると、家族達は思っていたのだが、それは全くの予想外れに終わる。
アーミュは銅貨1枚さえ、家族に渡さなかった。
そうして、アーミュは家族と疎遠になっていった。
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