34 狭間の物語 ◇◇◇ ラフィラス3
僕は……僕達はわかってた。
わかってた…はず……だった。
アーミュの事が好きで、一緒に居たい気持ちも本当だったけど、僕には王族としての義務と責任があるってずっと言われていた。
だから、わかっていた……つもりだった。
『フィスよ、今度ウィスティリス侯爵家の令嬢を招いておる。
まだ幼いが、王子妃としての素養はありそうな娘御と聞いておる。
会って、しっかりと婚約にまで進められるよう…逃がすでないぞ』
お祖父様が言うには、王家の威光を取り戻すためにも、僕は高位貴族の令嬢と婚姻を結ばねばならない…らしい。
僕は…その言葉になんて返事をしたんだっけ……もう記憶は曖昧だけど、学院が終わって、馬車に乗る前にアーミュと話した。
とうとう婚約しなければならないかも…って。
学院から出て少し行った所の人気のない場所で、僕達は並んで項垂れるしかなかった。
だからと言って何が変わる訳でもない。
僕が他の令嬢と結婚しても、アーミュは僕の小間使いで、ずっと傍に居てくれる…関係性が変わる事はない…そう思っていた。
僕はそう思っていたけれど、アーミュは違ったのかもしれない。
思い返せば…学院終わりのあの話の後、アーミュは今まで以上に僕にベッタリと張り付くようになった。
『大丈夫、ずっと一緒だよ。
あたしが一番フィスの事考えてる。
だからフィスもあたしの事、一番に考えてよね。
そうしてくれたら、いつか本当に隣に居られるかもしんないモン』
僕はその言葉を、僕が結婚してからも、傍付きとして支えてくれるつもりなんだと思ってた。
そして彼女……ウィスティリス侯爵令嬢に会った。
幼い令嬢だとは聞いてたけど本当に彼女は小さくて、妹が居たらこんな子だったのかななんて考えてたんだ。
だけど彼女がゆっくりと顔を上げ、視線が交わった瞬間、僕は彼女から目が離せなくなってしまう。
紫色の真っすぐな髪が風に靡いてて、そこだけ光が舞ってるみたいに見えた。
大きくて深い紫色の目は眦が吊り上がってて、まるで子猫の目みたいに澄んでいて…本当に綺麗だった。
そして何故だろう……アーミュには感じた事がない感情が湧いて来て、凄く戸惑ったんだ。
ウィスティリス嬢が小さくて繊細な美しさだったからかな…守りたいって思った。
傍で僕が守らないと…って…………アーミュには僕の方が頼ってばかりだったからかもしれない。
でも、そんな出会いは直ぐに幕を閉じた。
彼女が倒れたからだ。
聞けばお祖父様がかなり連れまわしたらしい。申し訳ないと思ったが、その後暫く会う機会に恵まれなかった。
そんな時だった…ルシアンに会ったのは…。
穴があったら入りたいとはこの事だろう。
今にして思えば色も顔も、ウィスティリス嬢そのものだったのに、僕は騎士見習の様な格好から、てっきり同性の子供だと思ってしまったんだ。
しかもルシアンが飛んできた木剣を弾いた時、その鮮やかさに僕は息を呑んだ。
友達になりたい、親しくなりたいと言う気持ちは直ぐに大きくなった。
王宮内の訓練場に出入りしていたのだから、絶対に何処かの貴族の子弟のはずなのに、何処の誰だか全然わからなくて途方にくれてしまった。
だから待ち伏せなんて言う、姑息な手段を選んだ。
何度か待ち伏せて…だけどその殆どは会えずじまい……だから学院が終わって王宮に戻ったら、僕は着替えもせずに訓練場に向かうようになった。
その甲斐あってか何度か待ち伏せは成功。
やっと名前を教えて貰えた。
『その…名前はなんて言うの?』
『……私の名前なんて、別に知らなくても困らない……王子様が知る必要はない』
その時丁度、アーミュが居なくて、これ幸いと僕は粘ってしまった。
アーミュは何故かルシアンを酷く敵視してて、彼女が居る時は長く話せなかったし、僕が名前を聞きたがったと知れば、彼女はヒステリックに喚いた事だろう。
だけど、僕はチャンスを手に入れたんだ。
『僕は知りたい。
君の事、もっともっと知りたいんだ…迷惑……かな…』
拒否されるのが怖くて、つい窺う様に訊ねてしまうのは僕の悪い癖……。
だけど、そんな僕にルシアンは、溜息を零しながらも名乗ってくれたんだ。
『……ェ……ル、ルシ…ア………』
教えてくれた事が嬉しくて、直ぐに確認する様に復唱した。
『ルシア…ン?』
『!……ぁ………ぅん、まぁ……』
『そっか、ルシアン……ルシアン…ふふ、嬉しいな…』
僕の呟きにルシアンの表情が曇って……その時はどうしてそんな顔をするのかわからなかったけど、もしかしたら憐れんでくれたのかもしれない。
友達もいない、王子と言う名の哀れな道化だと……。
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