33
「フ…本当にウィスティリス嬢は好ましい御令嬢だ…。
やはり名を呼ばせて頂く事は出来ませんか?」
ラフィラスに引き続き、レヴァンにまで済し崩しにされるのは避けたい。
もう間もなく王宮から出ていくとは言え、立つ鳥跡を濁さず……波風を立てないように去るべきなのだ。
困ったように微笑むエリルシアに、レヴァンは軽く肩を竦めた。
「あまり執拗だと嫌われそうですね。
今は引き下がりましょう。
あぁ、それで用向きなのですが、植物の魔物であるサキュンツアの捕獲をお願いしたいのです」
「サキュンツアですか?
えぇまぁ……大量に出現しますけど…」
サキュンツアと言うのは植物系の魔物だ。
見た目は多肉植物に毛が生えたような姿をしている。
乾燥には適応しているが決して強い種ではなく、水が豊富なエリアではタリェングラス等の他の植物系魔物に追いやられて姿を見る事はない。
とは言え増殖力は決して侮れないスピードで、領に居た頃はサキュンツアの駆除をしない日はないと言う程だった。
そんな増殖力と、魔物なのに魔石を持たない種と言う事で、冒険者ギルドでも買取して貰えない為、駆除したら駆除した分だけ疲労が溜まると言う、悲しい扱いの魔物であった。
まぁ、それでも駆除しない訳には行かないので、狩ったサキュンツアは纏めて燃やすまでが一連の作業となるのだが……。
「でも捕獲って……あんな魔物、捕まえてどうするのです?
魔石は持っていないし、食べる事も出来ません。
他に使い道も……」
エリルシアが怪訝そうに首を捻ると、レヴァンは柔らかく微笑んだ。
「確かに……。
ウィスティリス嬢が不思議に思うのも無理はありません。
ですが、私は必要だと考えているのです」
レヴァンが表情の温度を下げ、真剣な眼差しで見つめてくる。
「貴方の領、いえ、その近隣領にも跨る大規模な水不足ですが、未だに原因は不明。
それはつまり何時、何処で起きてもおかしくないと言う事……違いますか?」
エリルシアも真剣に考え込む。
原因については可能な限り調査はしている。
わかり易い日照りとかなら兎も角、雨は例年通りに降っていて、水脈の移動か喪失ではないか?…と推論するしかない状態だった。
だからレヴァンの言う事は、当然な懸念である。
魔法を使えるようになった今なら、原因を探る事も可能かもしれないが、それは王都に来てから可能になった事だし、そんな公表できない手段で調べた結果を広く伝える事は不可能だ。
ならば『何時、何処で起きてもおかしくない』という状況に変わりはない。
「つまりは対岸の火事ではないのです。
我がロージントの領も、何時そんな不測の事態となるかもしれない…。
ですので今色々と調べているのです。
実験と言っても良いでしょう」
「実験…ですか…」
レヴァンが長い足を組み替えて、ゆったりと天井を仰ぐ。
「えぇ。
サキュンツアは弱い種です。ですが乾燥には強い…それは水を溜め込む性質があるから。
であれば、サキュンツアから水だけを取り出せれば、活用出来ると思いませんか?
しかもアレの増殖力は呆れるほどのスピードです」
レヴァンの話す内容は理解できたが、エリルシアはゆるゆると首を横に振った。
「公子様の御話は理解出来ます。
実際、私達も使えないかと試行錯誤しました。
しかし弱くとも魔物……体内に貯めた水には瘴気が含まれてしまっていて使えないのです」
エリルシアの言葉にレヴァンは頷く。
「だから実験なのです。
私は長く大国ネデルミスに滞在し、その間勉学に勤しんできました。
魔物について学んでいた事もあるのですよ。
知識は役立ててこそ…でしょう?
ですが、その為には実験対象となるサキュンツアが必要です。
如何でしょう…生きたサキュンツアを買い取らせて頂けませんか?」
最後の言葉にエリルシアが顔を上げる。
「買い…取り……です、か…」
「えぇ、買い取りです。
直ぐに結果は出ないでしょうから、暫く買い取りは続くでしょうね…ウィスティリス領の資金に回す余裕も出るのではないでしょうか?」
エリルシアは不意に湧き上がった寒気に、思わず自分の腕を擦った。
穏やかに微笑む美貌の裏を、深読みしたくなるのはエリルシアだけだろうか……。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




