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昨日はラフィラスで今日はレヴァンかと、エリルシアは大きな溜息を吐いてしまった。
しかし『確認しています』とは……スザンナ達侍女面々にでも訊ねたのだろうか…。
そうなると居留守を使う事は難しい。
仕方なくエリルシアは『どうぞ』と返事をした。
開かれた扉の先、其処には声から予想した通り、レヴァンの姿があった。
「こんにちは。
入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
自分より身分の高いレヴァンの入室を拒否るなんて、普通に難しいのは明白なのにあえて問うてくるのは、エリルシアが幼いとは言え異性だからだろう。
当然のように扉は開いたままにしておいてくれる。
対面のソファを勧めると、レヴァンは『失礼します』と律儀に声に出す。
お茶をお願いしようと鈴に手を伸ばすが、それはレヴァンによって止められる。
「あぁ、お茶は不要です」
「……わかりました。
それで、何か御用でしょうか?」
ラフィラスの側近となったレヴァンが、エリルシアに絡んでくるのは単なる社交辞令、義務感に近いモノだろうし、態々部屋にまで訪れる必要はない。
尤も、その社交辞令が『ネタ』扱いなのは、些か不愉快であるのも事実。
以前も言ったように、エリルシアが王宮に呼ばれたのは茶番だ。
結末は最初から決まっていて、エリルシアは道化でしかない。
ホメロトスはその道化を、道化のままにして置く気は無いようだが、それで結末が変わるとも思えない。
つまり側近として、エリルシアの事を見極める必要もないはずなのだ。
だからこそ、部屋にまでやってきた理由が思いつかない。
「ウィスティリス嬢はせっかちなのですね。
いや、不安……なのでしょうか…。
私が訊ねてきた理由を、今も考えている…違いますか?」
そう言ってレヴァンはふっと笑った。
エリルシアは失敗した事を悟る。
(あ~、まさかと思うけど……もしかしてやばい性癖持ち…?。
人様の趣味嗜好に口出しする気はないけれど、相手が自分の事を考えているのが嬉しいって顔よね……。
いやいや、まだ11歳か12歳だったんじゃなかったかしら?
そんな年齢で……ないわぁ…ないわぁぁ…顔面はとても麗しくて偏差値アゲアゲでイラッシャイマスガ……出来ればお近付きになりたくない人種…かもしれない…)
エリルシアとしては敬遠したいが、この顔面偏差値の高さなら、少々趣味嗜好の偏りくらい目を瞑ってくれる女性は多そうだ。
つくづく美貌の持ち主はお得だなと思う。
「フ…そんなに警戒しないで下さい。
まぁ下心はありますが、まずは用向きを先に済ませましょう」
ゆったりとソファで長い脚を組む姿は、年齢に過ぎた貫禄を醸し出している。
そのくせ普段はにこりともしないのに、今は口角が上がりっぱなしの甘い表情を浮かべている。そんな顔をもし御令嬢方々に見られれば、失神する者が続出する事間違いなしだろう。
だが、エリルシアをおちょくる為に来た訳ではないようだ。
勿論『下心』と言う単語はしっかりと聞き咎めていて、ぞわぞわしてしまったが…。
「ウィスティリス領の事を、私も少々調べさせて頂きました。
水不足が深刻で、我が家からも見舞い金は既に送らせて頂いています」
「はい、その話は聞き及んでおります。
御礼の手紙は既に送らせて頂きましたが、改めて御礼申し上げます。本当にありがとうございます」
エリルシアが王宮に訪れる条件に、無利子融資を入れたのは確かだが、返済不要の見舞金なんて実は想定外も良い所だった。
本当にありがたい。
乾燥に強い作物を探すにも資金は必要で、色々な事が後手後手になっていたから、其等に着手が可能になって本当に涙が出るほど嬉しかった。
ウィスティリス領は元々穀物や野菜の生産を主力にしていた。
だが、原因不明の水不足に陥り、領政の切り替えを余儀なくされ、現状に即した農産物を手探りで探さねばならなくなった。
何とか乾燥にも耐える芋類を見つける事が出来、少しずつ持ち直してきてはいるが、まだまだ安定には程遠い。
せめて後数種…芋以外の作物候補を見つけ出したいと思っていたので、見舞金はそれに使わせて頂いていた。
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