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エリルシアは曖昧な笑みで武装し、ゆっくりと顔を上げる。
「王子殿下、そのような誤解を受けかねない事はおっしゃらない方が賢明です。
誰が何処で聞き耳を立てているかわかりませんから。
此方の本は…ありがとうございます。部屋に戻ってから読ませて頂きますね」
そう言うと、エリルシアは机に置かれた数冊の古びた本を抱え深く一礼すると、くるりと背を向けて急いで図書館を後にする。
後ろで止めようとしたラフィラスの手が、エリルシアの残り香を追う様に伸ばされていた事も知らないまま。
昨夜は結局夕食を取り損ねた。
図書館から逃げる様に戻って来たエリルシアは、ラフィラスが探してきてくれた本を抱えたままベッドに潜り込み、気付けば朝になっていたと言う次第。
慌てて飛び起き、まず本の確認をする。
破けたり、汚れたりはしていないようで一安心だ。
今日は図書館には行かず、自室に籠ってラフィラスの本を読む事に決める。
感情が不安定になっている事は自覚している。
独り言まで聞かれていた衝撃に加え、自分を持て余している状態で、もし彼と出くわしてしまったら、どんな顔をしてやり過ぎせば良いのかわからない。
今は気持ちを切り替えて、魔法の手掛りを探す事に専念するのが良さそうだ。
(いや、手掛りというか……魔法は使える。
今も使うだけなら可能なのよ。
だけど、魔力の経路にすんなりと力が流れて行かない…そんな違和感を感じて仕方ない…。
その原因も探れるなら探りたいし、水脈探索って補助魔法系…で良いわよね?
前世以前の魔法の記憶って攻撃か治癒のみで、それ以外はさっぱりなせいか、上手く感覚が掴めないのがもどかしい……。
例えば水や雷を出現させる事、それらを用いて攻撃を加えたり、変形させて壁にしたりは…多分問題ない。
まぁ…水が操れるなら、それをそのまま不足分に充てれば問題解決……とは行かないわね。流石に魔力が持たないし、そんな事をすれば絶対に魔法が使えると露見してしまう。
だけど、探索となると……前世のダウジングロッドの様な魔具があれば話は早かったのに、そっちは望み薄だものね…)
頁を捲る音しかしない部屋で、エリルシアは頬杖をつきながら文字を追い続ける。
スザンナが来てお茶を淹れてくれたが、すっかり冷めていた。
ラフィラスが探してきてくれた数冊の本。
数冊と言うか3冊……そのうち2冊は読み終えた。
確かに『魔法』という言葉は出てきたが、内容はと言うと古い民話を集めただけの物で、エリルシアが求めている内容ではない。
最後の1冊は表紙も何も擦り切れて、辛うじて本の体裁を保っている紙の束だ。
表紙だけでなく、本文の方も掠れてたり汚れてたり……酷いと破れていたりして、廃棄を検討されたのも仕方ないと納得出来る。
だが、読み進めていくうちに、エリルシアの双眸が鋭く細められた。
(これ……これは、探してたものじゃない?
あぁ、何でよりにもよって此処が破れてるのよ……。
えっと…つまり、魔力回路は身体の成長に合わせて変化する…って事みたい?
読める文字だった事は感謝しかないけれど、掠れに汚れ、破れも然りながら虫食いの穴で文字が……あぁ、本当に保管状況さえ良かったなら…って、今更な事を嘆いてもどうしようもないわ。
何にせよ、私が感じてる違和感は、子供の内は仕方ないと分かった事は収穫よ。
それにしてもこの世界の人間って不便ね。
力量とか以前に成長も楔になってしまうだなんて……)
更に読み進めようとしたが、扉のノックの音が割り込んできた。
ノックの後も開かれない様子に、スザンナではないとわかる。スザンナならノックの後少しして扉を開くだろう。なのに開かれないと言う事は……居留守を決め込むと、再び意識を本へと向けた。
「(ウィスティリス嬢、在室しているのは確認しています。
開けて頂けませんか?)」
途端にエリルシアの表情が険しくなった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
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