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エリルシアは、咄嗟に避けるか避けないかの二択を考える。
避ければ逃れる事は可能だろう。ただその場合、残念ではあるが椅子とテーブルの犠牲を回避する事は不可能だ。
もしかするとラフィラスにまで被害が及ぶかもしれない。
避けなければ…つまりアーミュの思惑通り、エリルシアがお茶を大人しく掛けられた場合、ドレスは確実に汚れるから、廃棄するしかなくなるかもしれない。
元々姉のお下がりを手直しした物なので、汚れたら汚れたで諦めはつく。
テーブルには若干飛び散るかもしれないが、椅子とラフィラスの安全は保障される。
「アーミュ!!!?」
ラフィラスの、驚嘆と微かな憤りを滲ませた声が響く。
一瞬『魔法で転ばせてやるのも一興かしら』等と頭を過るが、そうなったら茶器が犠牲になるだろう。
何より魔法等と言う、失われた技を使う危険は避けるべきだと思う。
この世界では失われた能力なのだから、気付かれる可能性はほぼ皆無に等しいが、用心しすぎるくらいで丁度良いはずだ。
瞬時に可能性を比較し、エリルシアは大人しくお茶を被る事を選んだ。
「ウィスティリス嬢!!」
「あぁ、エリルシア様!!」
「キャァァァ」
ラフィラスと侍女達の叫びを聞きながら、そっと双眸を伏せる。
「…………………」
おかしい……いつまで経っても熱さや衝撃を感じない。
ゆっくりと目を開けると、視界は黒で覆われていた。
「………ぇ…」
視線を辿らせると、広がった黒は誰かの身体だと言う事がわかった。
漆黒の衣装とは珍しい。
更に視点を上げると、其処にはラフィラスと似た面差しを持ちながらも、正反対の印象を受ける横顔があった。
ラフィラスは王族によく現れる青みがかった金髪に、空色の瞳を持っている。所謂王色と言う奴で、早春の色と言った感じだ。
しかし、今エリルシアとアーミュの間に立ち塞がった彼は、瞳は王色である空色…明るい青色なのに、黒に近い深緑の髪色をしている。印象としては晩秋…だろうか。
「随分と王宮侍女の質は下がっているのですね」
顔の印象はエリルシアより少し年上、しかし纏う雰囲気や声音は、ラフィラスよりも落ち着いた印象を受ける。
「な、なによ!……ぁ」
アーミュが思惑を阻まれて、お茶をぶちまけた相手を睨むが、直ぐに頬を染めて口籠った。
「君は……」
ラフィラスも知らない人物のようだが、侍女達の言葉で誰なのか判明する。
「も、申し訳ございません、ロージント公子様!」
深く頭を下げて謝罪する侍女達を一瞥してから、ロージント公子と呼ばれた少年は、この騒動の元凶であるアーミュを冷淡に睨み付けた。
「その色……なるほど…。
父上達が私を隣国へ避難させる訳……」
合点がいったとばかりに呟くと、今度はラフィラスの方へ視線を流す。
「王子殿下…で宜しいでしょうか?
傍仕えの者の躾くらいして欲しいと思うのですが、過ぎた願いでしょうか?
こんな幼いレディに、火傷を負わせるおつもりですか?」
わかりやすくラフィラスの顔色が悪くなった。
怒涛の勢いで展開される状況に、エリルシアも思わず唖然としてしまっていたが、ハッと椅子から立ち上がってカーテシーをする。
「大変失礼致しました。
ロージント公子様には初めてご挨拶申し上げます。
ウィスティリス侯爵家が次女、エリルシアと申します
そして……申し訳ございません。公子様の御衣装を汚してしまいました……」
「なるほど…貴方が…。
丁寧な挨拶痛み入ります。
私の名はレヴァン・ロージント。以後お見知り頂ければ幸いです。
服についてはお気になさいませんよう…レディを守るのは男として当然の事。
貴方に大事がなくて良かった」
先程までの冷ややかさを潜め、礼儀正しく姿勢を正した彼は、やはりラフィラスに何処か似ていた。
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