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思わず窓からチラリと覗く。
馬が繋がれていない馬車箱だけの状態だから、誰も居ないと思ったのだろう。
エリルシアが留まる車体の陰に隠れるようにして、2人の男女が身を寄せ合っていた。
男女と言ってもどちらも年若いと思われる。
と言うのも着ている服が、姉に一度見せて貰った王立ロズリンド学院の制服と同じデザインだからだ。
詰まる所、身を寄せ合う二人は学院生なのだろう。
遠く、他にも同じような服装の少年少女……エリルシアよりは年長ではあるが…の姿が散見出来るので、丁度下校時間か何かに行き当たってしまったらしい。
道中はニムスにお任せで、今どの辺りなのか知らないが、どうやら学院が近いようだった。
「(でも、あたしじゃ身分が釣り合わないわ)」
「(…………)」
「(だから、ちゃんとした御令嬢と……ぐす…)」
「(…わかってる……)」
これって出馬亀って奴になるのでは…と一瞬頭を過るが、覗いてしまったものは仕方ない。
二人共、エリルシアの居る馬車箱に背を向けて俯いているせいで、顔はさっぱり見えない。
顔が見えないのは確かだが、それ以外の部分は、まだ周囲が明るいので確認出来る。
少年の方は青みがかった金髪を短く整えていて、少女の方はふわふわとした癖の強いピンク色の髪をしていた。
(どっちもあまり見ない髪色だわ。
それにしても身分差の恋って感じかしら。
……何と言うか…王都って凄いのね…)
とは言え、これまでこんな告白シーンと言うか、色恋沙汰とは縁のなかったエリルシアにしてみれば、精々ズレた感想を抱くだけの事だ。
名前も知らない男女の、悲しい一幕ではあるのだろうが、何処まで行っても他人事でしかない。
エリルシアは早々に思考を切り替え、手の中にある魔具に没頭する。
程なくしてニムスが馬を連れて戻り、再び馬車箱に繋ぐと、両親と姉の待つ館へ向けて走り出した。
到着した場所は王宮の直ぐ近く。
王宮で働く官僚達の居住区で、集合住宅が並んでいる。
その中で小さく古びてはいるものの、ちゃんとした庭もある官舎館の一つで馬車は止まった。
小さな鞄を手に馬車を降りれば、両親の下で働いている使用人5名の内の一人であるミリアが、速足で出てきた。
「あ……。
エリルシアお嬢様…ですよね?
こんなに成長されて……」
ミリアが口元を押さえて涙ぐむ。
祖父母の葬儀時も、ミリアは此方に残っていたので、もう数年程会っていなかった。
だからこその反応に違いない。エリルシア自身はそんなに変わったつもりはないのだが、やはり小さな子供の成長は早いと言う事だろう。
「旦那様! 奥様!
エリルシアお嬢様が到着なさいました!」
エリルシアの手からやんわりと荷物を奪い取りながら、ミリアは開け放したままの扉の方へ声を張り上げた。
古びていようと端くれだろうと、仮にも高位貴族の住まいなのに、ドタドタと品のない音が聞こえてくる。
ころげるようにして飛び出てきたのは、両親だ。
領地で祖父母の葬儀時に、少し対面出来たが、何故だろう……妙に窶れて見える。
いや、経済状況諸々で心労が絶えず、顔色が冴えた事等、ほぼないのは確かだが…。
「エリィィ!! 済まない…本当に済まない」
「あぁ、エリィ、ごめんなさい。
もうどうしていいか……うぅ…」
会った早々、目の前で泣き崩れる両親に、エリルシアは怪訝な表情を浮かべ、首を傾けた。
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本日はもう1話、21時頃に投下を予定しています。
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