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(うっわ……勘弁して欲しいんだけど…)
王子なのに、何処か遠慮がちに訊ねてくるラフィラスの後ろで、ピンクの癖髪の少女が、ぐぐっと眉間の皺を深くしている。
(だからぁ……相手が違うでしょうに…。
睨むなら、突然変な事を言いだした王子サマの方を睨んでよ。
それにしても、可愛らしい顔立ちだったと思うんだけど……怖いわね、あぁも豹変出来るなんて…。
まるで鬼の形相だわ。
兎に角、これは『触るな危険』案件よ。光の速さで逃げないと!)
「……ぁ、ぁの…申し訳ありませんが、決まった時間に訓練してる訳ではないので…」
此方が思わず罪悪感を抱いてしまう程、ラフィラスは一瞬でしょげかえった。
反対に後ろのピンク鬼は眉間の皺を消している。
(はぁ……メイドさん、人間に戻ってくれたみたいで助かったわ。
って、いけない。
彼女は王族に仕えてるんだから、メイドじゃなく侍女になるんだったかしら?
自分の邸ではないのだから、もっと気を付けないと…)
「そっか……。
その、練習相手じゃなく話し相手でもダメ……かな…。
僕のまわりには年齢の近い者が少なくて…友人も居ないんだ」
『いや、親しすぎる相手は居るだろう?』と、目線に意味を込めて、人間に戻った少女に視線を向けた。
なかなか優秀みたいでホッとする。
エリルシアの視線の意味に、ちゃんと気付いたようだ。
それにしても友人もいないとはどう言う事だろう……学院に通ってるはずだから其処で友人くらい出来そうなものだが……。
「あぁ、アーミュは…って、そう言えば紹介もまだだったね。
彼女の名はアーミュ。
ずっと傍で仕えてくれてる……幼馴染…かな」
その言葉に、アーミュと紹介された少女は、一瞬ポカンとした表情を浮かべ、ラフィラスの横顔を見つめている。
流石に初対面に近い貴族子女への紹介に、王子とは言え『恋人』なんて単語を口にする訳にはいかないのはわかる。何しろ現在進行形で『婚約者探し』をしている王子なのだから、選定が終わる前に恋人がいるだなんて、醜聞でしかない。
だが、アーミュには不満だったようだ。
「だけどアーミュは女性だしね…。
出来れば同性の友人が欲しくて……無理を言って悪かったね」
苦みと悲しみを含んだ微笑みを、ラフィラスは顔に張り付ける。
だが、引っかかりを覚えたエリルシアは、思わず自身を見下ろした。
見習いだろうが何だろうが、王宮騎士なら貴族である事は間違いない。
しかし女性である可能性はかなり少ない。
市井とか私設の騎士団や兵団なら兎も角、ここは王宮内の訓練場なので、貴族男性と思い込んでも仕方なかった。
なるほど、確かに『貴族令嬢』には見えないかもしれない。
まだ8歳なので、つるんぺたんな体型に、白いシャツ、黒のブリーチ、膝下の黒ブーツ、更にすっぴんで髪も後ろで一つに結えるているだけ。
そんな姿では、男にしか見えないのも当然と言えば当然である。
ちなみに初挨拶時は髪は下ろして髪飾りを着けていたし、ドレスを着ていた。
化粧も少しされていたような記憶がある。
(つまり、私が女性だと気付いてない……延いては、先日の挨拶時に倒れた者だと気付いてないと言う事ね。
って……彼女…アーミュさんだっけ?
アーミュさんは御友人候補にもガン飛ばしてるって事?
あちゃぁ……流石にそれはどうなのかしら…でもまぁ、触らぬ神に祟りなし、私は逃げの一択ですけどね!)
深くカーテシー…ではなくボウ・アンド・スクレープをして、脱兎の如く逃げた。
そんなこんなで早々に撤退したのに、それ以降、訓練時間の終わりに搗ち合うようになってしまった。
まだエリルシアを何処かの貴族子息と思い込んでいるので、図書館や保管庫、自室として与えられた部屋に突撃してくる事はないが、訓練後は何度か会ってしまい、ずるずると引き留められる事数回…。
偶然で片付けるには無理がある回数が重なり、不審に思って少し聞き込んでみると、どうやら騎士団の訓練時間の終わりごろに、出入り口で待ち伏せしているらしいと分かった。
本当に同性の友人が欲しいのだろう。
気の毒に思うが、エリルシアはラフィラスと同性ではないし、何より火中の栗を拾う気は全くないのだ。
(本当に怖いのよね…アーミュさん…。
王子殿下には笑顔だけど、後ろに下がって王子から見えなくなった途端、こっちを睨み付けてくるんだもの。
ほんと…勘弁して欲しいわ)
そんな微妙な関係性に終止符が打たれたのは、本当に偶然の事だった。
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