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別にお茶会等の社交に向かうと言う訳ではないので、コルセットをつけたりはしないが、重く動き難いドレスは、それだけで拷問に感じてしまう。
(王宮に滞在していた頃は、これが毎日だったのよね……よくまぁ耐えられたものだわ)
しみじみと思い出していると、ポーラが嬉しそうに声を掛けてきた。
「お嬢様、何か良い事でもございましたか?」
気付かぬうちに笑みが浮かんでいたらしい。
そうして改めて思い出す。
短い期間ではあったけど、王宮に滞在していた時間は何にも代えがたい思い出になっていた。
土産を持たせてくれたスザンナ達侍女や針子達、厨房の面々。
マーデン先生にも最後の挨拶が出来ないままだったと思い出す。
他にも王や公爵達重鎮達にも何も言わずに去ってしまった。
恐らく両親が何とかしてくれているだろうけど……。
何より鮮やかに蘇るのはラフィラスやレヴァンの事。
今も元気でいるだろうか……良い御相手が見つかっただろうか……少しばかり胸が痛むけど、やはりエリルシアにとってかけがえのない大切な記憶になっている。
そして…振り返れば散々嫌がらせや暴言も受けたが、アーミュとの遣り取りも悪い時間ではなかったかもしれない。
何しろアーミュが酷い態度になればなるほど、ラフィラスが…いや、ラフィラスだけでなくレヴァンもエリルシアの事を気遣ってくれたからだ。
(…って、そんな風に思うって不味くない?
ちょっと、私、ヤバい人になってない?
人としてどうなの!?
…あぁ……いけないわ、これじゃ私の方が悪役令嬢まんまじゃない…)
自分で自分の思いに、エリルシアは背筋を凍り付かせる。
全く持って不謹慎だ。
家族や他からも、アーミュの顛末は聞かされていない。
だが、それでも噂と言うのは何処からともなく聞こえてくるモノだし、エリルシアは領経営で得た人脈他もあって、自分で調べようと思えば、いくらでも調べられた。
最終的には彼女自身の選択の結果だったのだろうと思うが、それでも胸にしこりの様なモノが残っている気がした。
「お嬢様?」
いけない…今度は険しい表情になっていたようだ。
ポーラの声に心配が含まれているのがわかる。
「ごめんなさい、何でもないわ」
「そうですか?
……ですが…ふふ、こうしてまたお嬢様の御髪を整える事が出来るなんて……本当に嬉しうございます」
ポーラが少しだけアレンジを加えたハーフアップに、どれにしようかと髪飾りをあてては外している。
特に髪飾りに希望はないのでお任せだ。
そうこうするうちに決まったのか、ポーラの手が髪から離れた。
「あぁ、お嬢様……本当にお美しうございます。
ティリエラ様が……大奥様がご存命でいらっしゃったら、どんなにお喜びになられた事でしょう…。
この髪飾りはティリエラ様が御輿入れの際に、お持ちになられたモノなのですよ」
そう言えば、ポーラとゾラックは、祖母の輿入れの時に、共に隣国からやってきたと聞いている。
あまり突っ込んで訊ねた事はなかったが……まぁ、そんな事を問う余裕もなかっただけの事なのだが…元々は二人共高位貴族家の出だという話だ。
おかげで幼少期、祖父母亡き後もガッツリとロズリンドの事は勿論、ネデルミスの事も叩き込まれた。
ふと気になっていた事を問いかけてみる。
つい先刻、封印部屋で見た祖母の姿……あれは確かに公爵家の令嬢なら齟齬のない姿だった。
だが、あれほどの魔具を使いこなし、しかも知識ごと国外に持ち出すというのは……何か裏があるのではないだろうか…と、気になっていたのである。
「ポーラ、少し聞きたい事があるのだけど」
「はい? 何でございましょう?」
「………御祖母様……御祖母様の出自は、本当に単なる公爵家の令嬢?」
「………」
ポーラの沈黙が雄弁に語る。
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