111
魔具で封じられていた部屋から、手前の書庫に戻る。
ヴィンデ家やラカール王太子による婚約拒否騒動の諸々の詳細は気になるが、流石にお腹もすいたので、一旦切り上げる事にする。
『封印を割った』と言っていたが、まさしくその通りなのだろう。最早書架と書架の合間から覗くのは、壁ではなく部屋だった。
もしかすると再度封じた方が良いのかもしれないが、エリルシアにはその方法がわからない為、このままにしておくしかない。
エリルシアは書庫を出て、1階へ下りる階段の方へ向かう。
後ろからロザリーが付いて来ているのは確認済みだ。
階段を降りかけたところで、ポーラに声を掛けられる。
「お嬢様、今日はもう遅いのでお部屋の方は既に整えてございます。
ですがその前に、お夕食をお召し上がりください。
ゾラックが腕によりをかけて御用意させて頂きましたので、どうか是非……」
少しばかりの不安を滲ませるポーラに、エリルシアは苦笑する。
これは流石に、振り切って帰宅する事は出来ないかもしれない。
ティルシー夫妻が領邸入りをするにあたって、料理人等の使用人を追加で雇っているが、それまではポーラの夫であるゾラックが、そういった雑事を一手に引き受けてくれていた。
だからゾラックが厨房に入ったという事実は、エリルシアの為に特別に…と言う事に他ならない。
しかし、気掛かりが一つ…。
リコだ。
彼女をあの小さな家に一人で残しておくのは不味いだろう。何しろ彼女は武の方はからきしなのだ……いやまぁ、知の方もからきしではあるのだ……無残な程に…。
だが、それも……。
「リコですが、使いをだしてありますので、間もなく此方に到着すると思います」
全く……未だに矍鑠として、隙のない老女だ。
ここまで退路を塞がれては、提案に従うしかないだろう。
困ったような笑みのまま頷けば、ポーラが珍しく満面の笑みを浮かべた。
そのまま一旦部屋へ案内される。
家でなら今の服のままで問題ないが、領主夫妻が暮らす領邸である以上、曲がりなりにもドレスに着替えざるを得ない。
ティルシー達が領邸入りする前…エリルシアだけが暮らしていた頃は、ドレスに着替えて…等と言う余裕もなく、作業着のまま芋に齧り付いたりしたものだが、領政が回復の兆しを見せ始めている今、これまでと同じ様に…とはいかないのだ。
部屋は既に準備済だというポーラの言葉に嘘偽りはなかったようで、エリルシアがずっと使っていたその部屋は、埃っぽさも何もなく快適に整えられていた。
何度も片付けて良いと伝えていたのだが、まだ維持されていたらしい。
まずは湯あみ。
小さな家に移ってからは、贅沢する訳には行かず水風呂がデフォルトで、湯あみなんて久しぶりだ。
エリルシアの滑らかな肌にゆっくりと温かい湯が掛けられる。
ポーラの手が右肩で止まった。
薄くなったとはいえ、まだ傷跡は消えたわけではない。
肌で感じる指の動きと、微かに聞こえた嗚咽に、エリルシアは思わず謝罪した。
「……ご、めん…な、さい…」
「ぃ、いいえ、いいえ!……お嬢様が悪いのではありません!」
「でも、随分と動かしやすくはなったのよ」
あえて明るく言葉にする。
ロザリーの謎の儀式もあってか、魔力の引っ掛かりも少なくなったように思う。
実際、リコも傷跡が薄くなったと言っていた。
いずれそれが無くなれば、治癒・回復魔法を試してみるつもりだ。
補助系と違って、前世以前の記憶に治癒魔法も回復魔法もあるので、すんなり使える筈である。
湯あみを終えれば、次に待っているのは拷問である。
エリルシアはそれを思い出し、途端に顔を引き攣らせた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




