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「……何をしている…?」
思い切り棒読みの問いが、ジョストルの口から洩れた。
その声にマーセルとティルナスが慌てて居住まいを正す。
「あ~っと……いえね、ティルナスがこの忙しいのに領へ戻るって言うので、つい……」
「ついってなぁ……前もって言っておいただろう?」
食って掛かるティルナスに、バツが悪そうにマーセルが目を逸らした。
「いや…まぁ……うん」
とぼけきれずに頬を引き攣らせるマーセルの様子に、ジョストルも溜息を零す。
「前もって申請があったならすんなり受理してやれば良かろう?」
「そうなんですけど……でも領へ戻る理由って言うのが、娘婿の誕生日が近いから…ですよ!?」
「それの何が悪い!!??」
娘婿…つまりティルシーの夫となり、ウィスティリス領で頑張っているパッキーの事だ。
仕事の忙しさとの天秤が何方に傾くかはさて置き、身内の生誕祝いの為の帰領も儘ならないとは……外交担当部署の見直しは早急に行わなければならないだろう。
だが、今は他に用件がある。
「……そうか。
まぁ気を付けてな……それは兎も角、マナウトの代官からの手紙が此方に届いておらんか?」
ジョストルの問いかけに、マーセルが首を傾げる。
「マナウト…って……。
確か北の国境付近の…ですよね?」
「うむ。
王家の直轄領だな」
マーセルが気持ちの悪い笑みを浮かべて天井を見上げる。
「いいですよねぇ、あそこ。
国境が近いせいで兵士が多いのが玉に瑕ですけど、川魚が美味いんですよねぇ。
その上、温泉が最高に気持ちいい……はぁ、仕事なんてほっぽって温泉でゆっくりと癒されたい……」
「………あぁ…もう、わかったわかった…。
お前達に倒れられては困るからな。
人員増強なり、仕事の分散など含めて、次の議題に必ず入れ込むから…。
それで、どうだ?
何か届いてないか?」
ウットリと呟いて現実逃避するマーセルに、ジョストルは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
「ん~……思い当たるのがないですねぇ…」
「んな訳あるか!」
ぼけっと呟いたマーセルに、ティルナスが突っ込んだ。
「さっき机に置いただろう?
あの中にマナウト代官殿からの手紙があった。
直轄領の事だから、早々に担当に届けてくれと、さっき頼んだじゃないか…」
そう喚きながら、ティルナスがマーセルの机の上に山積みになっていた書類の中から、1通の封書を発掘する。
それをジョストルに差し出した。
「公爵、すみません……これがそうです」
「あぁ、すまない」
ジョストルは受け取ると直ぐに開封した。
直轄領の事ではあるが、担当者が前もって内容確認をするのが通例なので、ラフィラスに渡す前にジョストルが開封したとしても、個人宛でない限りは問題ない。
文面を見つめるジョストルの顔が、徐々に険しくなる。
「……これは…」
ティルナスとマーセルが首を傾げるが、ジョストルはそれには構わず、後ろへと身体を捻った。
「殿下、これを…」
「え!?」
「殿下!!??」
ティルナスとマーセルからは、ジョストルしか見えていなかったようだ。
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