106
「あれ、殿下、閣下も……お菓子無くなっちゃいますよ~?」
休憩を堪能してくれているらしい様子に、先を歩いていたラフィラスが笑顔を見せる。
「あぁ、構わないから全部食べて。
余りそうならお土産にでもしてくれて良いから」
野太い歓声が上がる。
「しっかり休憩したら、また仕事の続きをお願いするよ」
少しばかりトーンが落ちた気もするが、文官達の顔色は悪くない。
「で、どっか行くんですか?」
両手に菓子を持って頬張っている年若い文官の一人が、ひょこっと顔を覗かせて聞いてきた。
その言葉に、ジョストルはさっきの不穏な考えのせいか、咄嗟に反応出来なかったのだが、ラフィラスが卒なく対応する。
「あぁ、此処も忙しいけれど、外交担当の方も忙しいでしょう?
だから彼方にも差し入れをしに行こうかと思ってね」
ラフィラスが苦笑交じりに言えば、文官達にどっと笑いが巻き起こった。
「あぁ、あっちは万年多忙だもんな」
「輸出入の事だけでも、他の部署に担当させた方が良くないか?」
「おい、今そう言う事を言うなって!」
何気ない会話の中に混在する提案に、ラフィラスが頷く。
「あぁ、確かにそれは一考してみても良いかもしれないね。
勿論利益不利益、色々考えないといけないけれど……それはそれとして、ちょっと行ってくるよ」
爽やかに言いおいて、近くに控えていた侍従に菓子と軽食の追加を指示する。
まだ文官達の声で騒がしい部屋を出ると、後ろからジョストルが沈んだ声をラフィラスに掛けた。
「……申し訳ございません」
「何が?
さ、早く行こう。
追加報告があれば、それによって何か見えてくるかもしれないし」
まだ若輩と言って良いラフィラスの気遣いに、ジョストルは更に沈み込みながら返事をした。
「……はい」
ラフィラスとジョストルは、外交を担当する者達が忙しく出入りする部屋へ辿り着いた。
先程まで居た街道整備計画担当の部屋と違い、全員無言で黙々と作業している。
少々声を掛けるのも憚られてしまいそうな空気だが、あえてそこから目を背けた。
「忙しいのにすまない。
ずっと忙しく働いてくれてありがとう。
細やかなものだが、菓子と軽食の差し入れを持ってきたから、少しでも休憩を取って欲しい」
外交官達は虚ろな目のまま、それでも顔を上げた。
「……あれ? 殿下?
俺、幻覚でも見てる?」
「なぁ、俺…幻聴が聞こえた。
菓子とか軽食って……夢だよな…」
酷い有様だ。
ラフィラスだけでなく、その後ろに続いて居たジョストルも思わず頭を抱える。
そんな二人に外交官の一人が近づいてきた。
「それでその……何か御用でしょうか?」
疲労の色が濃い顔を、それでも必死に取り繕って訊ねてきた彼に、ジョストルが進み出て返事をする。
「忙しいのに悪いな。
マーセルかティルナスに会いたいのだが…」
「はぁ…………………ぇ…閣下?
ッ…し、失礼しました!!
えっと室長と主任ですね?
多分室長室にいらっしゃるかと思います!」
促されたのは一番奥に見える扉だ。
今度はジョストルが先に立って、その扉へ足を向ける。
軽くノックをし、声を掛けて扉を開く。
「ジョストルだ。
すまないが開けるぞ」
返事を待たずに開けるのはどうなのだろう?…と言うラフィラスの視線が突き刺さるが、気にしているのはラフィラスだけだ。
「え?ぁ、閣下?」
「ロージント公……どうなさったんです?」
ジョストルとラフィラスの目に飛び込んできたのは、旅装に身を包んだティルナスの腕を、必死に抱え込んで解放しようとしないマーセルの姿だった。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




