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だがそんな膠着状態を、ラカールが打ち破った。
突然の婚約拒否表明、そしてその後すぐに恋人であったフィミリー・キゾット伯爵令嬢との婚約を、強引に発表したのだ。
おかげでネデルミス側とのお見合いパーティの予定は流れ、ツヌラダ王国からの打診もなかった事にされた。
王宮は当然のように騒然となったが、それだけでなく、実は裏で事件が起きていたのだ。
それをジョストルが知らされたのは、ラカールがフィミリーとの婚約を発表してから暫く経っての事。
事件と言うのはトリーゴ公爵家の使用人殺害事件である。
しかも単なる殺人事件と片付けるには、問題があった。
トリーゴ公爵家の男性使用人の一人が、ツヌラダ難民の女性と懇意になっていたのだ。
それだけなら他人の恋愛事情に口を挟むな、と言うだけの事……いや、仮にも公爵家の使用人が素性の知れない難民女性を相手に…と言う事そのものに問題はあるのだが、その男性使用人が顔を潰されると言う無残な姿となって発見される。
しかもお仕着せのボタンは引き千切られ、持ち去られていた。
その後トリーゴ公爵家も被害者男性の部屋や、自邸を捜査したのだが、役職持ちの使用人に渡される特別なバッジが盗み出されていた事が判明する。
バッジの方は無事発見されたが、ボタンの方は持ち去られたままである。
盾に麦の意匠が施されたボタン……そう、アーミュと接触した盗賊が持っていたあのボタンだ。
これを重く見たトリーゴ公爵家は、王宮から距離を取り、今なお自粛しているのか、表立って姿を見せる事は殆どない。
もしあの時ネデルミスとのお見合いパーティを執り行い、ツヌラダの者が入り込んでいたら、何があったかわからない。
そんな事件があったのだが、それを知らされていないホメロトス王は激怒した。
ネデルミスとの繋がりを強める為の政略を、寸前で反故にしただけでなく、『伯爵令嬢』という後ろ盾にもならない家の娘を娶ると宣言した事に腹を立てたのだ。
ツヌラダ王国や事件の事もホメロトスに話し、理解を得るべきとの意見も出されたが、目先の事にばかり目を向け、決して思慮深いとは言えないホメロトスへ、全容を話す事は出来なかった。
その後、拗れたかに見えたネデルミス王国との橋渡しをティリエラ・ウィスティリス侯爵夫人が行い、新たな縁を繋ぐ事に尽力してくれたおかげで、事なきを得ている。
ネデルミス王国との関係は何とかなったが、何とかならなかったのはホメロトス王の方だった。
事実を知らされない事で、ホメロトスは息子であるラカールに『裏切者』の烙印を押してしまう。
自身も国も、ラカールに蔑ろにされた心持だったのだろう。
その為、息子夫妻に見切りをつけ、生まれた孫、ラフィラスを囲い込んだ。
自身の近くに置き、関わらせる者も自分の気に入った者達だけ……。
そんな生育環境で、よくぞ真っすぐに育ったものだと、神に感謝したいくらいだ。
だからジョストルとしては、孫レヴァンの幸せは勿論願っているが、ラフィラスの事も同じように……いや、もしかしたらレヴァンの事以上に幸せになって欲しいと思っている。
自分を始めとした大人達の思惑で、翻弄される事しか許されなかった少年に、何とかして償いたいと思っているのかもしれない。
「ロージント公爵?」
いけない…とジョストルは居住まいを正した。
随分と過去の想念に囚われていたらしい。
「申し訳ございません。
では確認しましょうか」
ラフィラスが頷くのを見て、ジョストルは書簡の封を切った。
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