102
ネデルミス王国、王宮内にある奥宮に、一人の女性がやってきた。
「いらっしゃい。
今日はとても香りのよい茶葉を手に入れたのよ」
そう言いながらやってきた女性に椅子を勧める。
「キャノリーヌ王妃陛下には御機嫌麗しく。
本日のお招き、ありがとう存じます」
椅子を勧めた女性はネデルミス王国第一王妃キャノリーヌ・ネデルミス。
対して椅子を勧められた側はベネティ・ザッタニフ公爵夫人。
ロズリンド王国マグノリア公爵家から嫁いだ鬼夫人その1である。
「堅苦しいのはよして頂戴。
さぁ早く座って。
お菓子も献上品からの選りすぐりよ」
無邪気に笑うキャノリーヌに、ベネティは肩を竦めた。
「全く…相変わらずね。
公務の方はいいの?」
「えぇ、そっちは娘が…ベスピネが上手くやってくれてるわ」
次期ネデルミス女王とも目されるベスピネは、最近では母親であるキャノリーヌ正妃に代わって、公務の場を取り仕切る事も多く、忙しい毎日を送っているようだ。
ベネティは、自身の娘と同じ年齢であり、幼馴染でもあるベスピネの事を、老婆心ながら少々心配している。
「またベスに頼ってるの?
いい加減働きなさいよ」
「え~だって面倒でしょ?」
取り付く島もない。
侍女がお茶の用意をするのを横目に見ながら、ベネティは若干居住まいを正した。
「ところで…」
「なぁに?」
のほほんと返事をするキャノリーヌに、ベネティはそのまま続ける。
「他の女性達の事は何か聞いてない?」
「他の…って、側妃と妾の事?」
「そう」
真剣なベネティを茶化すように、キャノリーヌはころころと笑った。
「わたしが無関心なのは知ってるでしょう?」
「……そう」
少しばかり重い空気を纏うベネティに、キャノリーヌも微かに眉を顰める。
「一体どうしたの?
彼女等は毒にならないならそれでいい…それだけの存在よ?」
「いえ、何も聞いてないなら良いのよ」
キャノリーヌは菓子に伸ばしかけた手を止めた。
「なんだか落ち着かない言い方ね。
何かあったならはっきりと言ってくれないとわからないわ。
わたしが察せるなんて思ってないでしょう?」
ベネティはカップに口を付け喉を潤した後、微かに溜息を吐く。
「……そうね。
もうずっとベスに情報収集も任せきりだものね…。
後でベスに確認するわ」
そう言って再びカップを傾けるベネティに、今度はキャノリーヌの方が落ち着かない。
「もう、そんな含みアリアリの言い方されたら気になるじゃないの…」
「それはそうかも…ね」
応じたベネティは、小さく深呼吸をすると、視線をキャノリーヌにひたと合わせた。
「ちょっとね…。
プルチェ王女とカプシャ王子が、何やらこそこそしてるみたいなのよ」
「え?
あの二人って……こそこそしてるのは何時もの事でしょう?」
「あぁもう…何時もの悪戯とは少し違うみたいなのよ」
キャノリーヌにはあまりピンとこないらしく、首を傾げている。
「元々あの二人は公務をするでもないし、使用人達への悪戯でチョロチョロするのも普段と変わりないんじゃないの?」
「はぁ…その程度だったらこうして聞いたりしないわよ」
ベネティの言い分も尤もだ。
しかし、だからと言って普段から我関せずを貫いているキャノリーヌには、あんな出来損ないの王子王女の事等、気にした事もないのだからわからない。
「どうもね……ロズリンドにちょっかい掛けてるみたいなのよね…」
「……なんですって…?」
ベネティは驚愕に目を瞠るキャノリーヌに、そっと目を伏せながら立ち上がる。
「だから、私はロズリンドに一度里帰りしようと思ってるの」
「ベネティ…」
「今日はその挨拶も兼ねて…ね。
次に会うときは敵かもしれないから」
呆然とするキャノリーヌを置き去りに、ベネティはその場を後にした。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
もし宜しければ、ブックマークや評価、リアクションに感想等々、とても励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




