SF革命
科学帝国の諸君、こんばんは。君たちの総統だ。
いよいよ明日は選挙だね。
我が民の未来をかけた投票だ。私は明日の決戦を、こう名付けた。
SF革命。
武器を取れ。一緒に立ち上がろう。
ご存じの通り、わが党の掲げる政策は、究極的にはただ一つだ。
「科学を、すべての人の手に取り戻す」。
科学は支配の道具ではない。兵器でもない。帝国臣民の皆が支え、皆がその利益を受け取るべきなのだ。
だが今はどうだ? 胸に聞いてみろ。君たちは科学の何を知っている?
そうだ。科学は奪われているのだよ。科学者に、研究所に。
さあ、一緒に科学を取り戻そう。
SF革命だ。
なぜ、SFにこだわるのか。
そもそも科学とは何だ。子どもが星を見る。虫を集める。未来を想像する。
科学の本質は、夢だ。SFだ。試験管ではないし、税金の無駄遣いでもない。
今、夢が独占されている。科学者に。
取り戻そう。SF革命だ。そうだろう?
こうSFの話ばかりしていると、心配する者もいるだろう。科学帝国だからな。
総統には、ちゃんと聞こえている。
「SFなんて、嘘じゃないか」って?
そ・の・と・お・り・だ。SFは嘘だ。捏造だ。
科学時代に入ってから、そうやってSFは虐げられてきた。
だが、忘れるな。SFには、事実よりも大切な真実が宿ることを。
君たちはオーウェルを読むか? いや、読まなくてもいい。
『1984年』は、知識人による科学の独占を予言した。この国を見ろ。君たちの手元に科学はあるか?
じゃあ、『1984年』の舞台となった国を知っている者はいるか?
オセアニアという国だ。
はあ? どこ?
心配するな。そんな国はない。作者の捏造だ。
いいか? オーウェルは嘘つきなのだ。つまり、誰でもオーウェルになれる。SFは書ける。科学はできるのだ。
もう一度言おう。SFは捏造だ。だが、前に進むための捏造なんだ。
そして、誰でもできる。革命の民が、武器を手に取るように。
武器を取れ。
科学が嫌いな者を、SF革命は拒まない。君たちは立派な科学帝国の一員である。歓迎する、熱意ある革命の担い手として!
SFは、夢だ。捏造だ。
私たちは試験管を持たない。SFを手に取り、前に進む。
小さなアイデアでもいい。大きなアイデアならもっといい。賢い君も、馬鹿なあなたもいい。皆で科学をやろう!
SF革命だ。皆の手に、科学を取り戻せ。
私は民の良心を信じている。明日は選挙、SF革命の日だ。
諸君、前に進め! SF革命。SF革命だ!
以上。
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拍手喝采。
おめでとう。総統は今期も科学帝国を支配する。SF革命だ。
小さなゴシップ新聞社が発禁処分を受けた。総統の悪口を書こうとしたらしい。
「総統の最新論文に不正? 実験データ捏造か」